【中古】嘘解きレトリック <全10巻セット> / 都戸利津(コミックセット)
【中古】嘘解きレトリック <全10巻セット> / 都戸利津(コミックセット) (JUGEMレビュー »)
「ウソを聞き分ける」が故に孤独だった少女が貧乏探偵の助手に、というレトロモダン路地裏探偵活劇…お世辞や方便に欺瞞を感じる、そんな読者少女を分かってますなぁ。
およそ100年前という地続きな設定、現代とは異なる感覚の豆知識も興味深いです…本格推理ファンには物足りないでしょうけど、見せ方から筋運びまで完璧!と感じる漫画家ですよ。
紹介記事【2023.02.01】
【中古】 ルーマニア賛歌 Europe of Europe /みやこうせい(著者) 【中古】afb
【中古】 ルーマニア賛歌 Europe of Europe /みやこうせい(著者) 【中古】afb (JUGEMレビュー »)
地理的にはウクライナの南、ブルガリアの北で西側はハンガリーとセルビアに接するルーマニア…つい東欧と一括りに捉えがちですが、カトリックと東方正教が混じり合った歴史を感じさせる万華鏡のような風土と文化のモザイクは旅心をくすぐられます。
紹介記事【2023.01.02】
フェーム 特別版 [ アイリーン・キャラ ]
フェーム 特別版 [ アイリーン・キャラ ] (JUGEMレビュー »)
ミュージカル映画かと思ってたんですが群舞シーンは意外と少なめ、ストーリーを追うより時代の空気を味わう映画かも…各エピソードにオチも後日談もなく、ドキュメンタリーのようにシンプルな構成でしたが最後はグッと来ましたよ。
紹介記事【2023.05.26】
ルックバック (ジャンプコミックス) [ 藤本 タツキ ]
ルックバック (ジャンプコミックス) [ 藤本 タツキ ] (JUGEMレビュー »)
(薄いなー)という第一印象を覆す、先入観なしに読んでほしい一冊です…尺は短めでも完成されてる、低予算ながら良質の自主制作映画を思わせます。
山形を舞台に描かれる、十代の少女2人の漫画愛&成長譚…ところが中盤の転換点から怒涛の勢いで感情を振り回され、喪失の痛みを知る人ほど「作り話の存在証明」を思い知らされるのでは。
紹介記事【2023.06.15】
COYOTE SPECIAL ISSUE 安西水丸 おもしろ美術一年生 Coyote MOOK / 安西水丸 【ムック】
COYOTE SPECIAL ISSUE 安西水丸 おもしろ美術一年生 Coyote MOOK / 安西水丸 【ムック】 (JUGEMレビュー »)
僕にとって安西は小説家であり、70年代の映画みたいな乾いた文章と裏腹な湿り気が印象的で…どこかで彼に嫉妬していたのかも、そう気付かされた本書で自分の絵心を取り戻せそうです。
紹介記事【2023.02.07】
ああ爆弾 [DVD]
ああ爆弾 [DVD] (JUGEMレビュー »)
舞台美術を融合させた和製ミュージカル、小気味好いカットインでテンポよく繋いでゆく独特な映画です…大筋は任侠コメディでもコミカルなシークエンスに関連性を与えているに過ぎず、目の前の滑稽に食い付いて心をスッキリ空っぽにする映画かと。
紹介記事【2023.04.20】
STYLE 男のファッションはボクが描いてきた [ 綿谷 寛 ]
STYLE 男のファッションはボクが描いてきた [ 綿谷 寛 ] (JUGEMレビュー »)
どこかノスタルジックなロックウェル調の画風、本番アメリカでも絶えてしまったファッション・イラスト…バイヤー並みの製品知識と造詣が描き出す「写真と非なる情報量」は、安西水丸の認識と真っ向から対立するようで興味深く感じられたりも。
紹介記事【2023.03.13】
ヒヤマケンタロウの妊娠 (BE LOVE KC) [ 坂井恵理 ]
ヒヤマケンタロウの妊娠 (BE LOVE KC) [ 坂井恵理 ] (JUGEMレビュー »)
男が妊娠・出産するようになり、10年が経過した世界…色々と自分のバイアスを揺さぶられました、現実の世間の根っこを「男の妊娠」一点で掘り返してます。
決して「弱者に」的な描き方ではなく、でも少子化対策の先送り感が浮き彫りに…一時しのぎじゃ逃げられないと腹を括る男たち、そういう腰が重さがリアル。笑
紹介記事【2023.06.03】
里見八犬伝 [ 薬師丸ひろ子 ]
里見八犬伝 [ 薬師丸ひろ子 ] (JUGEMレビュー »)
かつてガッカリした方こそ芝居感覚で観てほしい、長大な原作を2時間強でまとめた冒険活劇としては当時なりに高水準だったと認識を改めました…筋運びを追う映画じゃなく見せ場を繋ぐ芝居の手法で、和合メタファのご来光やハリボテ大ムカデも笑い所だったのでは?
紹介記事【2023.03.11】
太田裕美 / こけていっしゅ [CD]
太田裕美 / こけていっしゅ [CD] (JUGEMレビュー »)
LPのジャケに改めて絵画のような価値と、差し向かいで聴く音楽の魅力を実感…久々に通しで何度も聴いちゃいました、こんな時間が今では日常の贅沢なんですな。
一聴して分かる特徴的な抜け感と透明感、この声質を引き立てる楽曲群…80年代シティ・ポップ前夜の、シャレオツとは言い難いからこそ魅力的な一枚です。
紹介記事【2023.05.12】
今夜すきやきだよ (バンチコミックス) [ 谷口 菜津子 ]
今夜すきやきだよ (バンチコミックス) [ 谷口 菜津子 ] (JUGEMレビュー »)
凸凹アラサー女子の協同生活、共感する要素は皆無な2人ですが何故か身に詰まされ…「人並み」の世間に属する異端な感覚、それは割と普遍的かつ根源的なのかも。
所詮は自分も誰かの「人並み」だし、共存の間合いという発想は大局的に地球をシェアするカギかとも…隣人と共存する一歩は、思想を語るより有意義そうです。
紹介記事【2023.01.08】
ハイツひなげし [ 古川誠 ]
ハイツひなげし [ 古川誠 ] (JUGEMレビュー »)
最初は(吉本ばななっぽい題名だな−)と思ったら掴まれました、料理とかスポーツとかの「簡単そうに見せる上手さ」みたいな?…面白味の薄そうな日常を退屈させずに描ける奥深さ、読んでる内に素になっちゃうような。
紹介記事【2023.05.04】
【中古】 9・11 N.Y.同時多発テロ衝撃の真実/(ドキュメンタリー) 【中古】afb
【中古】 9・11 N.Y.同時多発テロ衝撃の真実/(ドキュメンタリー) 【中古】afb (JUGEMレビュー »)
“衝撃の真実”かはともかく、ドキュメンタリーの撮影中に遭遇した視点そのものの衝撃…フィクションのようにしか感じられない自分への罪悪感、理不尽な災害への行き場のない気持ち…人の持つ気高さと、本質的な善意が胸に沁みます。
紹介記事【2023.02.05】
関連記事「9.11オフィシャル・レポート」【2023.01.20】
【中古】[PS2]Zill O'll 〜infinite〜(ジルオール インフィニット) 通常版(20050623)
【中古】[PS2]Zill O'll 〜infinite〜(ジルオール インフィニット) 通常版(20050623) (JUGEMレビュー »)
遂にPS2本体も三代目、全エンディング達成後は初見イベント探しに夢中です…どの出来事にも裏があり、全体像を知るにつれ各キャラの印象も大きく変わる仕込みの多さには驚かされます。
紹介記事【2023.01.04】

最近読んだ本
多和田葉子(文)、溝上幾久子(絵)「オオカミ県」

なるほど、絵本の世界でも「絵」と「文」の作者には格の違いがあるんだな…単に(表記順が統一されてない)のではなく、映画の役者名みたく「知名度なりキャリアなり優れている方が優先的に表記される」といった仕来たりがあるのでしょうね。
それはともかく、銅版画と聞いて浮かぶイメージどおりの絵もあれば(これも?)と思うような絵もありました…濃密なクレヨン画や淡いインク画のようにも見えて、格上に置かれた多和田の文章と互角に主張しています。
といっても勝ち負けじゃなく、文を説明してないというか…むしろ(絵と文は別々に出来たのかも)と思う位、それぞれ独立した印象が。

もちろん、文と絵が(てんでばらばら)なのではありません…同一対象を異なる受像体で捉えたかのように、相互補完しながらもパラレルなバイアスの語り口であると感じるのです。
といっても僕は文章を使っているので、多和田寄りの説明になってしまいますが…本書はオオカミ県の青年が、兎じゃない動物たちが“兎のふりをして住んでいる”東京で暮らす内に(目覚めてしまう)といった寓話です。
おそらく読後は誰もが(この話を彼は知っていただろうか)と思うでしょう、でも本書は首相暗殺から着想を得た訳ではありません…'22年以降に本書を読むと、寓話とは絵空事じゃないのだと感じる筈。

インターネットの風評から、災害視察の官僚と陰謀論が向かう先…オオカミは人を襲うんじゃなく“人に襲われた時に抵抗するだけ”、まぁ追い詰められたネズミは猫を噛むし好奇心が殺す猫もいるし。
読解力がなく“オオカミになろうぜ”を真に受ける兎がいるとしたら、本書を危険な扇動と断じる兎もいるだろう…なんて杞憂も笑い飛ばせない“広告に囲まれてみんなが読みたくなるようなギラギラしたニュース”に溢れ、小さな声にまで大声のハウリングが混じってる気さえする昨今。
大人の絵本というよりも、子供と兎には薦められない寓話かも…初版'21年、論創社刊。
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    | books | 2024.03.14 Thursday | comments(0) | - |
    最近読んだ本
    谷川俊太郎(作)、松本大洋(絵)「かないくん」

    初版'14年、東京糸井重里事務所刊…という訳で企画・監修は糸井重里、ブックデザインには祖父江慎+鯉沼恵一(cozfish)とあります。
    個人的に祖父江は奇を衒う印象があって、最初に分かってるとつい身構えてしまいます…でも本書は素直に、松本が描いた日本画調の色彩を活かした印象がしました。
    僕は今まで谷川の詩に(一段上)な感じがして、凄いなとは思うものの思考越しに伝わるような遠い印象がありました…僕にとっては身の丈を超えてるような、直に(響いてくる)という感じがしなかったのですが。
    本書は違いました、でもそれを言葉で説明するとまた違っちゃう気がするのだけど。

    “きょう、となりのかないくんがいない。”
    小学校の子供たちは、妙に昔っぽくて…でもそれが腑に落ちる時、何というか「ルックバック」の中盤で起きた(世界の転換)に似た自由さを感じたのです。
    いや自悠かな、自適かな…物理法則の軛(くびき)から解き放たれたような、ふいに重力が消滅したような(ふわり)とした感覚。
    単に語り手が入れ替わっただけじゃない、無意識に固定していた視点がアンロックされたのかも…特に仲良い訳でもないクラスメイトの不在、そして永遠の不在において「有でなければ無」ではない的な?
    やっぱり、まだ僕には説明が出来ませんね。

    それに本書は、僕の拙い説明だけで分かった気になってもらいたくないです…それは物語すべてに言えるのですが、歴史だったり世間一般の物事みたいに「AがBだからC」と説明が付く物語はないのですから。
    粗筋が物語と等しく見なされ消費し得ると思われがちな昨今ですが、本書のような物語が生まれる余地はあるのですね…むしろ、故にこそ物語が紡がれる意義はあるのかもしれません。
    そして本書は(物語として書かれた詩)だと、僕には感じられました…詩の自由が感じられる物語、とも言えます。
    これは多分、読む人によって意味が変わるでしょう…読む時によっても物語は変わる筈です、是非ご一読を。


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      | books | 2024.02.27 Tuesday | comments(0) | - |
      最近読んだ本
      片岡義男「波乗りの島 ブルー・パシフィック・ストーリーズ」

      本書も先日の「ハワイイ紀行」に劣らず、再読どころか何度となく読み返している一冊ですね…表紙カバーと巻頭ページの、オアフ島ノースショアで撮影された佐藤秀明による写真がまた秀逸です。
      本書は27歳の日系三世バリー・キミトシ・カネシロの視点から描かれておりまして、サーフィン映画の製作スタッフというのが如何にも70年代ですね…会社のオーナーで彼より3つ年上のラリー・デイヴィス、6つ下の大学生ジェニファーも共にサーファーで連作短編の主要人物です。
      今回は同時進行で読み返していた「ハワイイ〜」と絡めつつ、各話を紹介してみます。

      確か著者の処女作でもある「白い波の荒野へ」は、僕が最初に買った本書のタイトルも同じだった筈です…一年前にフラリと現れ、波以外の事は無頓着なエマニュエルと彼が予言した“波”にまつわる顛末の一編。
      いきなり延々と続く波の描写を乗り切るか、これは波乗りに縁のない読者にとってハードルが高いでしょう…中学生だった頃の僕も、いきなり初っ端で挫折しかけましたし。
      「ハワイイ〜」との関連は波乗り御用達の気象無線と“波地図”ぐらいですが、エマニュエルが語る「アラスカ南岸を襲った巨大津波」の話は星野道夫の著書でも読んだ覚えが。

      「アロハ・オエ」は開発のため取り壊されるハレイワのニシモト・カントリー・ストアから始まり、ラリーがハリウッドから呼び込んだ映画スタッフをアテンドする合間に「射爆場にされた聖地カフーラウェ島への無断上陸デモ」があり…冬の北海岸で大波に挑んだアイランド・ボーイズの劇的な死を悼み、ハワイイ中の波乗り達はワイメア沖に出ます。
      カホラウェ島に関する「ハワイイ〜」の記述は、70年代の上陸デモから法廷闘争を経て「'94年から海軍は数十年間で不発弾撤去を行う予定」とありました…とはいえ30年が経過した現在も、やっぱり進捗率は芳しくないようです。

      因みに「ハワイイ〜」にも「アロハ・オエ」という一章があり、欧米人に発見されて以降の“土地私有思想”で19世紀には約8割の土地が外人所有となったハワイイ史に当てられています…そして夜中のライディングで聞いた“気味の悪い重低音”で幕が上がる「アイランド・スタイル」は、自然と共に古い生活様式を守る音楽一家と大資本による立ち退き命令が噴火で一切ご破算になる一編です。
      ハワイイの音楽と火山活動は「ハワイイ〜」に詳しく、南国もまた自然災害との共存でもあるのですね。
      舞台となったハッピー・ヴァレーは実在する地名で、高見山関の出身地だとか。

      「シュガー・トレイン」はオロマナ・ビーチパークで決められた「環境保全のための人工海底造成」に対する抵抗運動と、かつて海沿いを走っていた「砂糖キビの運搬に用いた蒸気鉄道」修復計画が一人の女性に奇跡を起こします…それは感動的であると同時に残酷でもあり、個人的には映像化に相応しいと思うんですけどね。
      シュガー・トレインは「ハワイイ〜」でマウイ島のラハイナ近郊に観光用が残っているとあり、こうした前時代的プランテーション企業は水の分配で今も住民と揉めている様子。
      むしろ、ようやく住民が声を上げられる時代が来たと言うべきか?

      「ベイル・アウト」は、完璧な波を求めて消えたサーファー探しが発端です…タヒチの無人環礁で撮影された8ミリ映像に映画作りを決めたラリー、しかしホクレア号のナビゲーターがラストに苦い余韻を残します。
      先日も書きましたが、本書で二度目の航海に出るホクレア号は伝統的な工法を用いて再現された双胴帆船です…「ハワイイ〜」でも現役であり、約20年の間に“数万海里の遠洋航海”を成し遂げていると書かれてありました。
      この度の併せ読みは思い付きでしたが、その事で本書のエピソードが印象強く感じられました…この時代に活発化した様々な権利回復が、40年後も志半ばである事は残念だな。


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        | books | 2024.02.09 Friday | comments(0) | - |
        最近読んだ本
        池澤夏樹「ハワイイ紀行【完全版】」

        再読か再々読か、あるいはそれ以上かな…実は初夏の猛暑っぷりに涼を求め、同地を舞台とする片岡義男の小説と併せて少しずつ読み返しておりました。
        (今夏は長引きそうだ)と覚悟して、ジワジワと交互に読み進めていたら案の定で…(このまま冬も常夏か?)とか思ってたら、流石にそうはならず一瞬で秋から冬になってしまい。
        そうなったらなったで、今度は夏の余韻に浸りつつチビリチビリと…90年代からハワイイ諸島を十年越しで訪ね執筆した本書と70年代初頭のハワイアン・ライフを描いた小説の、時代の隔たりを感じさせない相乗効果はユニークな楽しみ方が出来ました。

        外部からの視点で固有の文化や伝承を学びつつ地形と自然に接する“ジャーナリズムの手法”で書かれた本書と、架空の日系サーファーを主人公としてハワイイらしいエピソードを盛り込んだ連作短編集…対照的なアプローチでありつつ、並行して読み進める中で日常と非日常が入れ子になったような感覚が味わえましたよ。
        本書の著者も波乗りを体験し、噴火の痕跡を眺めたり体験者から話を聞いたり…また既に相当の場数を踏んでいるらしきホクレア号も、片岡の小説ではハワイイ〜タヒチ間の“二度目の航海に出発する”と紹介されているなど共通項が多くてね。

        そして、折しも大規模火災が発生した古都ラハイナも両書に登場します…マウイ島ドライブ映像でも僅かに映っていた街並みが、このタイミングで焼失してしまった事は一層残念でなりません。
        片岡の小説が'74年の初出で文庫化は'80年、本書は初出不明ながら最初の刊行が'96年で完全版としての文庫化は'00年…奇しくも約20年前と40年前のハワイイに関する、別系統の読み物を同時進行で味わっていた訳です。
        また20年後も、次は'20年の一冊を加えてみようか…だとしたら経済データ関連が好いのかもな、甘い神話の世界から厳しい現実の話へってか。笑


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          | books | 2024.01.24 Wednesday | comments(0) | - |
          最近読んだ本
          佐藤有(写真・文)「なつかしの昭和の子どもたち」

          作者は'37年生まれで'42年に竜ヶ崎に移住、今も牛久沼の畔で活動されているなら86歳の写真家という事になります…日付が記された範囲で昭和30〜47年、都市部に遅れて波及した高度経済成長で移りゆく農村の生活風景には元気に遊ぶ子供らがいました。
          '60年頃からアンリ・カルティエ=ブレッソンに触発されたスナップ写真を、また濱谷浩や島田謹介らの民俗写真とアンセル・アダムスの影響から風景写真へファインダーを向けた作者自身の変遷もまた写り込んでいそう…変わりゆく風景と子供たち、同じ農村地帯の中で被写体そのものから時代の空気や文化へとアングルの意識が拡がってゆくような。

          ある時期からスナップ写真に抵抗を覚えるようになった僕ですが、本作を見ていて(スナップ写真は隠し撮りじゃないんだ)と思い知りました…被写体が気を許している親密な間合い、それが隠し撮りとの違いなのでしょう。
          木登りしたり全裸で川遊びする子供、ぬかるんだ校庭に広い空と点在する家々…田んぼと畦道を被い隠した水面を走る自転車に、思わず「千と千尋の神隠し」に描かれた線路を連想したり。
          モノクロであるが故にか、今や当たり前じゃなくなった光景は幻想的ですらあり…それ以上に半世紀を経て消滅した生活風俗の記録として、当時の都市部を中心とした映像が見逃していた歴史としても意義が感じられます。

          そして、これは作者が意図したのではないでしょうけど…写真集としては非常に低い精細度が、過去の現実をAI生成の架空世界に見せてしまうのです。
          初期のスキャナーでデジタル変換したせいなのか、トリミングや加工の編集ソフトが古いのか…ここまで大判の写真でモザイク寸前のジャギジャギ画像は見た事がなくて、それが芸術絵画の趣きさえ感じさせるという倒錯に痛快さを覚えました。
          むしろ昨今の高精度なAI描画に比べてローファイにすら感じるからこその諧謔といった、強烈な諷刺すら読み取ってしまうのですが…何でしょうね、この感覚って。笑

          実際にこの時代を生きていた年代の方々でなければ、これらを「粗雑なフェイク画像ですヨ」と言われたら信じてしまうだろうな…巧妙なフェイク画像の氾濫が、史実を嘘臭く見せてしまう皮肉。
          現実でありながら(現実というイメージ)から浮遊し、本来の意図から離れコンセプチュアルな芸術へと逆説的に近付いているようで…単に懐古趣味や文化風俗の観点からは貴重であり被写体との距離感や構図としての魅力を保ちながら、AI作画のスーパーリアリズムを現実と混同する脳の混乱に追い討ちをかけるブラックユーモアが感じられる偶然の付加価値は個人的に一読をお薦めします。
          初版'19年、国書刊行会刊。
          「なつかしの昭和の子どもたち」(←クリックで拡大表示されます)


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            | books | 2024.01.02 Tuesday | comments(0) | - |
            最近読んだ本
            テルヒ・エーケボム(著)、稲垣美晴(訳)「おばけのこ」

            初版'23年、求龍社刊
            絵本というにはバンドデシネ並に分厚いけれど、ほとんど文字のない単色の絵本です…作者はフィンランド出身のグラフィックデザイナー兼イラストレーターで、'14年にフィンランド漫画協会からプーパー帽賞を授賞するなど漫画家としても活動されてるようです。
            1ページ毎に額装された絵のような線描画が、ブルーグレーに着彩されていて…そのタッチと、ほんの少し痛みを漂わせた物語は益田ミリを思わせます。
            うん、悲しみというより痛みだな…悲しみもあるけれど、どうしようもない癒えない傷。
            そうだな、個人的には「トラブル・イン・マインド」という映画の余韻と重なる感じ。

            ちょうど、その映画が本作を手にする数日前から思い浮かんでいて…あれは(大人の童話)的な気がしていたけど、もっと(言葉で表しようのない傷)を描いていたのではないか?と急に感じていたので。
            そういった、よく分からないセンチメンタルな感覚が僕に本作をそのように見せているだけかもしれません…でも巻末の「ひかりでつなぐ」と題した川内倫子の寄稿文を読むと、あながち遠くはないのだろうとも思えて。
            主人公の女性とは重なる要素が何もない自分ですが、ひょっとすると(塞ぎ込む)という状態は行き場のない気持ちに適応する態度なのかも…今の自分が、と言えば違うのですが。

            “こころがきずだらけになったから”
            “ひとざとはなれたところに ひっこすことにした”
            森の中の小さな一軒家、壁紙の大きな花柄が淡い照明に揺れ動いて見える…夜中には森の奥から呻き声がして、彼女は古くからの悲しみに気付きます。
            不要とされた人々の魂に恐怖を抱かない、そんな彼女が不自然に思えるかもしれません…ですが、怖がる心があるなら住もうとはしない場所に越して来る思いも人にはある訳で。
            明るい日中の場面よりも、主に仄暗い室内で物語は進んで行きます…これから本作を手にする方々のためにも、ストーリーに関してはこの位にしておきますね。

            身の回りの物と一緒に彼女が持って来た、一足の小さな靴…彼女を手伝う“おばけ”が“ひかりのなか”に行かない理由、そして最後に書かれなかった言葉。
            それらを「未回収の伏線」などとは読まず、分からない事は分かろうとしなくても好いのだと今は思えるようになりました…これも「トラブル〜」を思い出していたせいでしょうか、事務的に処理済みとして片付く物事ばかりではないからこそ物語は生きているような気がするのです。
            益田の漫画が、僕には今一つピンと来ないけど(合わない)と決め付けない理由もね…以前よりは、何となく腑に落ちました。
            「おばけのこ」(←クリックで拡大表示されます)


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            *以下の動画は、携帯からでは視聴できないかもしれません。

            『絵本『おばけのこ』(テルヒ・エーケボム/著 稲垣美晴/訳)』
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              | books | 2023.12.11 Monday | comments(0) | - |
              最近読んだ本
              澁澤龍彥(彥は彦の旧字)「東西不思議物語」

              初版'82年の河出文庫、初出は'75年の毎日新聞・日曜版に1年近く連載された48編+単行本化に際して加えられた1編…内容は書題の通り、古今東西の尋常ならざる伝承や記録を語った随筆です。
              大体が一般読者も創作ネタで知ってるレベルのオカルト話だから新味は薄いものの、博覧強記で知られる著者だけに引き合いの出し方が上手いというか…所詮は人の想像力、洋の東西を問わず類話はあれど微妙な違いに目を留める辺りは流石。
              ただ、著者の挙げる出典元がマニアック過ぎて…浅学の自分には真偽判定不能のため、話半分で楽しませていただきましたよ。笑

              著者いわく“不思議を楽しむ精神とは”“いつまでも若々しさを失わない精神”であり“驚いたり楽しんだりすることができる”能力だそうで、確かに何かと記憶が発火して純粋に鑑賞する事は難しい今日この頃…ですが一方で、それは(既存の知識や経験が解像度を高めてゆく実感とのバーター)でもある気がします。
              別の言い方をすると、若い時とは驚きの質が変化するんですね…それは著者にだって当てはまるんじゃないかな、こうして膨大な知識の引用や経験からの連想を加えて面白がっているんですからね。
              好奇心が枯渇するとしたら、それは若さ云々じゃなく生き方を見失ってるんでしょう。

              最終章にある本書の意図は、言うなれば温故知新ですね…古代の伝承や神話が最新のSFに通じるテーマがあり、不思議な物語はイメージやシンボルの宝庫であると。
              でも僕がその文章から連想したのは、ネットで痴呆のように繰り返される無知の放言や一昔前の焼き直しを最新と思い込む底の浅い流行でした…しかし今までそのように捉えていた要素が「古い物事は何度でも新しくなる」という、真逆の認識に変換されたのです。
              作劇や作曲でも「既に出尽くした発想の組み換えしかない」と言われますが、あらゆる発想が根本的には進化せず繰り返されている…万事が既存の事象を分解し再結合し続けているだけで、ひたすら万華鏡を回転させては悦に入っているのが人間社会なのだと。

              それこそ19世紀のサルドゥーがパリッシーの霊力で作った「死者の霊が木星に移り住み再び人として生きる」銅版画は後のシュタイナーが語った木星紀の源泉かと思えますし、海外小説「猿の手」の元ネタっぽい西欧の呪具「栄光の手」もハンド・オブ・グローリーの仏語マン・ド・グロワールから魔法植物マンドラゴールが由来とする説に(今も昔も想像力って大差ないわ)と感じたのです。
              “いかいか「今昔物語」”や“れうれう「百物語評判」”といったオノマトペに“あっしあっし「死者の書」”を思い出し、飛鳥時代から敗戦前の「さらばラバウルよ」まで列挙した(意味不明な歌詞の戯れ歌と凶事の因果関係を疑う心理)にデマの下地を考えたり。

              個人的には、大田南畝の「半日閑話」より引いた(天女に接吻される夢を見てから死ぬまで口が好い香り)という話に特級の不思議さが…一方、200年ほど下ったフランスの少女はキリストの接吻を受けて口からシロップやボンボンを吐き出したと聞いても僕は(なんか違う)と感じてしまうのです。
              また中国の広東地方に伝わる鏡の世界からの侵略者を黄帝の軍勢が撃退し人真似の義務を課した伝説は、ちょっと前に思い付いたSFネタと被ってて気恥ずかしくなったり…それと東北に伝わる不死人の常陸坊海尊は、若狭に伝わる八百比丘尼と同じく人魚の肉を食したといわれているのが興味深かったですね。


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                | books | 2023.11.19 Sunday | comments(0) | - |
                最近読んだ本
                井上卓哉「ステレオ写真で眺める明治日本」

                初版'23年の古今書院刊、副題は「−まちとむらの暮らし、富士山への憧れ−」…著者は富士山好きの学芸員ですが、前半は主に明治半ばの庶民生活です。
                ステレオ写真、90年代にも3DCGとして流行しましたね…その立体視の技法が19世紀に確立されていたとは意外でした、当時は専用スコープで視る前提で撮影されたようですけど本書は左右の間隔を約6cmにして肉眼で立体視が可能なよう調整されています。
                本書に収録された80組の内67組はハーバート・G・ポンティングの作品で、終盤の富士山特集に江南信國ら同時代の彩色ステレオ写真13組を収録。

                ポンティングは1910年にマクミラン社より出版した「In Lotus-Land Japan」なる見聞録が好評を博し、スコット隊の南極探検に同行した際は現地に暗室を作っちゃう人物だそうで…欧米で流行していたステレオ写真を依頼されて1901年〜06年に訪日、本書のネタ元「Japan through the stereoscope」素材を国内各地で撮影しつつ「Notes of Travel」に詳細な解説書を記する熱心な仕事ぶりが本書からも伝わります。
                これが単に西洋人の異国趣味をくすぐる写真集ではなく、多様な職種や日本特有の習俗を取材した文章と併せて当時の貴重な資料となっている点は英国人気質に感謝しなければ。

                いや(日本スゲー)じゃなく、むしろシアーズ・ローバックの中華チックな彩色のエキゾチック・ジャパンも一周回って味があるけど学術的にはね…って、そういう意味でもフラットに記録してくれた有り難みは100年経って感じられる訳で。
                明治維新が1868年で関東大震災が1923年だから、ちょうど中間の時代なんだな…この55年間って、当時の時流も100年後の1968〜2023年に等しい位に慌ただしく変化していたのだろうと思えたり。
                しかし一方で、震災の前後に福原兄弟が撮影した風景を思わせる写真もあったりするのが興味深いです。

                明治の繁華街が完全に自分とは断絶してる半面、田舎の景色は福原兄弟を経由して明治と昭和が地続きに感じられるのですよ…情報や文化に置いて行かれた場所にこそ連続性が維持され、100年の隔たりを超えて歴史の繋がりが伝わってくる逆説はちょっと不思議。
                要は都会がトレンドという水物を追い掛け続ける一方、そこで廃れず伝播していった要素が着実に歴史として全体を底上げしてゆくにしても…こうした長いスパンの成果をタイムラプス的に実感し、その過程で失われた手仕事や風習の意義を理解しつつ発展の取捨選択も俯瞰する体験は非常にスリリングでした。

                また“日本の地方の生活を知ることができる著作”として、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲が明治27年(1894)に著した「知られぬ日本の面影」をポンディングが欧米人に勧めているというのも面白いです…彼の眼差しにハーンと相通ずるものを感じていたので納得しましたが、欧米人全般に特有の無意識な優越思想が感じられない点が両者に共通している気もして。
                因みにステレオ写真は老眼鏡を使わず裸眼で見ても現実同様なんですね、藪睨みでなら老眼でも辛うじて立体視が可能でしたよ…ま、ほぼ老眼鏡越しに寄り目してましたけど。笑
                ステレオ写真で眺める明治日本a(←クリックで拡大表示されます→)ステレオ写真で眺める明治日本b
                ステレオ写真で眺める明治日本c(←クリックで拡大表示されます)


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                  | books | 2023.11.05 Sunday | comments(0) | - |
                  最近読んだ本
                  志村ふくみ(文)、土屋仁応(絵)「Meteo メテオ 詩人が育てた動物の話」

                  題名の動物は(いきもの)とルビが振られていて、それは絹糸の染織家でもある志村の意図でした…彼女は本作を、木から様々な動物を彫る土屋の作品をみた晩の夢から物語の着想を得たのだそうで。
                  つまり両者とも専業は絵本作家でなく、また出版のためのプロジェクトとして本作が生み出された訳ではないんですね…いや先に企画があっての制作に至るエピソードだったとしても、彫刻家が木の中に見出だした“いきもの”が草木で染めて織り上げる人を通して形となった絵物語である事は変わりありません。
                  それを内輪話で済まさずに、今度は彫刻家が絵を添えて広く読まれる形になった訳です。

                  先ず、こうした本作の成り立ちに出会えた縁を嬉しく思いました…なんだか、かつて友人が山で語ってくれた夢に向かって旅した時の気持ちに似てるなと。
                  その1か月ほどのキャンプ中に体験した、森の木々から膨大な意識が流れ込む感覚…あの未だに分からない出来事が個人的な幻想でなく、色々な形で様々な人が見る不思議な夢と同じ何かを共有してる気がしてきたりも。
                  それとは別に、この物語に流れる喪失の静けさは先日みた「銀河鉄道の夜」を思い起こさせました…“ことばというたべものだけで慈しんで育ててきた動物(いきもの)”メテオが、松葉を敷き詰めた銀色に光る庭を訪れる夜。

                  まさに夢語りの、短くてオチのない話です。
                  だから、分からない人には(で?)っていう感想しかないでしょう…それでも何か少しは、救われるような心の動きが残るのではないかと思います。
                  詩人を導いて天に昇るメテオの光跡、それは言明されていなくとも各自の脳裏に思い描かれるのではないか…もしそうだとすれば、人は無意識に美しいビジョンを共有しているのだなと想像しました。
                  動物(いきもの)を対等な種族たちと思う感覚、それはトーテムの本質にも思えます…そして慈しみの想像で育った“いきもの”は、共有意識の世界を垣間見せてくれるのかもと。
                  初版'23年、求龍堂刊。
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                    | books | 2023.10.22 Sunday | comments(0) | - |
                    最近読んだ本
                    岡上淑子「美しき瞬間」

                    初版'19年の河出書房新社刊、ですが収録された40点のフォト・コラージュ作品が制作されたのは戦後間もない'51〜6年…その後は活動を縮小し家事に時間を割くようになり、半ば忘れられていた'77年に一人の学芸員が衝撃を受け20年後に作者を探し当てます。
                    そして'00年、その学芸員が企画した44年ぶりの個展により作者は72歳にして世間に知られ…巻末に至り、こうしたドラマチックなエピソードに驚かされました。
                    個人的にコラージュといえば山藤章二っぽい賑やかな作風を想像しがちだったので、このようなシュールレアリスムの静けさは鮮烈でした…しかも切り貼りの痕跡が分からないモノクロームな画面は、むしろ写実主義的な具象画にも見えてくるのです。

                    本来の意味や象徴から解き放たれた、あるいは変容を遂げた女性たち…これらの鋭さが、終戦から5年後の'50年に「学生だった作者がちぎり絵の技法から編み出していた」と知って更に驚かされました。
                    後にエルンストのコラージュ技法を知って黒バックだった背景に広がりが生じますが、期せずして両者とも大戦の荒廃が制作の契機となっている点は興味深いです…ですが、それ以上に僕は先日の藤城清治との奇遇を感じてしまいました。
                    戦前から影絵を描き続け、'50年に出版された最初の絵本を'10年にフルリメイクした86歳の藤城…'50年に始めた当時の作品で'00年に個展を開催した、72歳の岡上。

                    藤城の飽くなき探究心も素晴らしいのですが、半世紀前の作品が糊の剥落も変色もせず残っていた岡上の情熱の埋み火にもまた心に響きます…芸術と称するには“厚かましい純粋さ”である自覚、そして“少なくとも創っていたときの心は自由だったから”という心情に胸が痛くなる程の共感を覚えました。
                    美術の歴史も技法も知らないまま夢中になった手慰みが偶々“シュール的だった”と語る作者の言う“青春”とは(遥か過ぎ去った自身の煌めき)であり、実際に老境へ至った者の言葉なのだと感じました…同時に僕もまた青春を口にするに相応しい年頃へと近付きつつあるのだと、いささか虚を衝かれた思いがしました。

                    個展の開催から二十余年を経て、70年以上も前の女学生が置かれていた状況も心理も想像さえ難しいけれど…安易な読み解きで分かった気にならず、自分もまた作品毎に選び抜かれ配されたオブジェクトを黒バックや荒々しい背景に並べ替えながら思いを馳せます。
                    若かりし作者が見た、突き抜けるような空の青さ…確か小松左京も終戦直後に見上げた青空を語っていた気がして、あの時もしかしたら多くの人が同じ空を見ていたのかも。
                    作品毎に添えられた、キャプションではない作者の言葉も端的にして深みを感じさせるのです…それらを制作していた時代の自分に、目を細めて微笑むような。
                    作品群の凛として言葉を寄せ付けない陰影とは対照的に、胸の奥に沁みる言葉なのです。


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                      | books | 2023.10.06 Friday | comments(0) | - |




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