最近読んだ本
雨宮処凛「戦場へ行こう!!」
(あめみやしょりん)かと思ってたら(あまみやかりん)と読むそうで、左翼ヘルメット被って右翼バンドを率いている目立ちたがり屋さん位に思ってましたよ…副題は「雨宮処凛流・地球の歩き方」、表紙デザインはピストルズ「勝手にしやがれ」のパロディときたか。
自分とは対極にある行動派の人って基本的には尊敬するんですが、時々そういう人が何も考えず反射的に動いてるだけに思えて…それもまた僕からは尊敬に値するのですが、反面では若干(すんげぇバカなんだな)と呆れ果てる時もあったり。
著者もまた、本能で動くおバカさんなんですなぁ。笑
しかし著者は失敗から学ぶタイプで、懲りないおバカさんではないのですね…しかも文才があるんです、痛々しいまでに自分自身を客観的に語れるスキルが。
「群像」誌上で'03年の12か月間「『北』の国から」と題して連載していた原稿に改稿と補筆を加え、改題したのが本書でして…“その一年というのは、私にとっても世界にとっても大きな転換の時期だった”と記している通り、北朝鮮問題とイラク戦争が日本で大きくクローズアップされていた年でもありました。
そんな中で、北朝鮮のよど号グループと語り合ったり“人間の盾”として開戦直前のイラクを訪問したり、傍目には(目立ちたがり)としか映らなかったであろう行動の中で本人が抱いていた心情が淡々と綴られるのですが…自虐的な文章を笑い飛ばす事も憐れむ事も出来ない僕自身に気付かされ、また当時の僕が感じていた困惑やらブレブレな信条やらを生々しく検証させられるような気分でした。笑
一足跳びに極端へと走る彼女を一笑に付す読者は、己の欺瞞と不誠実さを突き付けられるという訳です。
そして北朝鮮にしろイラクにしろ、日本という国籍を背負う者に付きまとうのはアメリカの影なんですね…世界的には「アメリカの属国」なのに「国際社会の一員」と思ってる日本って、周囲との間合いを測れず右往左往していた著者のような国家なんだよな所詮。笑
関連記事:
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【最近読んだ本】松本聡香「私はなぜ麻原彰晃の娘に生まれてしまったのか」| 2012.09.26
【最近読んだ本】ノーマン・メイラー「なぜわれわれは戦争をしているのか」| 2013.01.03
【最近読んだ本】「マイケル・ムーアへ ――戦場から届いた107通の手紙」| 2013.03.19
【最近みたDVD】「ヤギと男と男と壁と」| 2013.08.17
【最近読んだマンガ】キムラダイスケ「マージナル・オペレーション」1巻| 2016.08.27
【最近読んだ本】ティム・オブライエン「本当の戦争の話をしよう」| 2017.04.15
【最近みたDVD】「ラジオ・コバニ」| 2020.08.18
→〈ガイジン〉関連記事
以下、個人的メモ。
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自分とは対極にある行動派の人って基本的には尊敬するんですが、時々そういう人が何も考えず反射的に動いてるだけに思えて…それもまた僕からは尊敬に値するのですが、反面では若干(すんげぇバカなんだな)と呆れ果てる時もあったり。
著者もまた、本能で動くおバカさんなんですなぁ。笑
しかし著者は失敗から学ぶタイプで、懲りないおバカさんではないのですね…しかも文才があるんです、痛々しいまでに自分自身を客観的に語れるスキルが。
「群像」誌上で'03年の12か月間「『北』の国から」と題して連載していた原稿に改稿と補筆を加え、改題したのが本書でして…“その一年というのは、私にとっても世界にとっても大きな転換の時期だった”と記している通り、北朝鮮問題とイラク戦争が日本で大きくクローズアップされていた年でもありました。
そんな中で、北朝鮮のよど号グループと語り合ったり“人間の盾”として開戦直前のイラクを訪問したり、傍目には(目立ちたがり)としか映らなかったであろう行動の中で本人が抱いていた心情が淡々と綴られるのですが…自虐的な文章を笑い飛ばす事も憐れむ事も出来ない僕自身に気付かされ、また当時の僕が感じていた困惑やらブレブレな信条やらを生々しく検証させられるような気分でした。笑
一足跳びに極端へと走る彼女を一笑に付す読者は、己の欺瞞と不誠実さを突き付けられるという訳です。
そして北朝鮮にしろイラクにしろ、日本という国籍を背負う者に付きまとうのはアメリカの影なんですね…世界的には「アメリカの属国」なのに「国際社会の一員」と思ってる日本って、周囲との間合いを測れず右往左往していた著者のような国家なんだよな所詮。笑
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以下、個人的メモ。
“「政治運動とかが盛り上がってる時代に生まれたかった。今の時代はつまらない」”
“私は何かから逃避するため、そして希薄な日常に耐えられないからこそ世界なんて大きなものを考えるのだろうか? と考えた。たぶん、その部分もあるだろう。だけど、それだけでもない。私にとっての重要なことは、いつからこんなにも世界の問題と個人の問題が乖離したのか? いつから激動しているテレビこそが現実で自分の日常がニセモノのような気がしているのか? そもそもどうして私は戦場に行きたいのか? というような問題だ”
“私なんかいてもいなくてもどうでもいいし、必要とされることなんてひとつもないし、私が私でいる必要なんてどこにもないし、だったらいっそのことカルトに入ってしまったっていいような気がした(中略)こっちの世界では頑張れば頑張るほど自分のちっぽけさや無力さを突き付けられるだけで終わりだと思った。今の社会に不満があるのに自分こそが社会のクズ同然。そんな自意識と等身大の自分の狭間で勝手に傷つき、だから私は絶対的な何かが欲しかった。私をわかってくれて、認めてくれて、正当な、いや過大評価をしてくれる何か。(中略)社会に出て、つまらない人間のもとで「つまらない」なんて言いながら本当につまらない仕事をして、そして本気でつまらないことで文句を言われたりして、それに傷ついてしまう自分、なんていう状況が身震いするほど恐ろしかったのだ。
だけど、地球を救うため、とかそんな大義があれば、どんなに怒られたって全然怖くない。自分のちっぽけさを突き付けられなくていいから全然怖くなんかない。レジの打ち間違いで一円単位のことで怒られるのは死ぬほど怖いけど、世界平和なんかのために怒られるんだったら私は全然耐えられる(中略)誰にも認められず誰にも注目されず誰も自分なんか見ていない毎日の中で、オウムは違うように見えた。ちゃんと誰かが見ていてくれて、頑張ったねって言ってくれる場所のように見えた。ちゃんとした修行の成就があって、こっちの世界では一生かかったって得られない達成感や充実感があるように見えた。それに比べてこっちの世界の私が自分で自分をはかる方法は、時給の額くらいしかないのだ。そして私に与えられる評価は時給の五〇円アップ、なんていうショボすぎるものだけ(中略)その意味では、ほとんどマトモに社会に出ることなく運動や修行ばかりに明け暮れている人たちは、ある意味でとっても幸せなのかもしれない。一度も社会に出ることなく革命ごっこや世界最終戦争ごっこに興じて一生を終えられることは、ある意味すごく幸福なことだろう。等身大の裸の自分を突き付けられなくてもいいし、物語の中、こっちの世界では到底味わえない達成感や充実感が味わえるはずだ”
“そして、オウム立ち退き運動を彷彿とさせる光景を見て改めて思ったのは、やはり白装束よりもどんなカルトよりも一番怖いのはフツーの人々の集団心理って奴だ、ってことだ(中略)ある種の物語の中にどっぷりと浸かって生きている人を目の前に突き付けられると、人は心の深い部分を脅かされるようだ。ちなみに私が心を動かされる理由は、どこかで自分も大きな物語の中で生きていたいという願望があるからだと思う。「世界の終わり」をすべてに優先するものとして生きるのも悪くないって思うからだと思う”
“カルトを責めるより、カルトが生まれてくる土壌を考えた方がいいというのは毎回言われることで、だけどやはり、この国はサリン事件の一九九五年から何も変わっていないんだなと思った。”
“公安関係者と接触すると、北朝鮮にすぐバレる(中略)私と一緒に訪朝したある男性は公安調査庁と内閣情報調査室に接触していたことが原因で、北朝鮮に二年二ヶ月にわたって勾留されている。彼は帰国してからも駅のホームの先頭には絶対に立たないと言うし、人が多い場所や人気のない場所も歩かないように気をつけているという”
“あの国に行くと、日本人というだけで同情されてしまうことがあって面喰らう。アメリカに骨抜きにされ、金の奴隷として生きる誇りも何もない国として日本を哀れまれてしまう。そして「非人間的」な「競争社会」を批判される(中略)もちろんそんなことを外国人に言えるのはピョンヤン在住の超エリートである。餓死する心配のない人たちである。しかし、私は驚いた。
「金の奴隷に 金の奴隷と 言われけり」
思わずそんなどうでもいい一句まで詠んでしまうほどに衝撃を受けたのだった”
“私が北朝鮮で生まれ育っていたら(中略)もうひとつのあり得た自分、情報の遮断された場所で純粋培養されるイフの自分をいつもあの国の人たちに見て、そして私は驚愕し、怯えると同時に北朝鮮の人と自分は何も変わらないということを再確認していた(中略)逆に北朝鮮の政治の腐敗を知っていながらも自己保身のために放置している労働党幹部と、会社の腐敗を知りながらも必死でそれを隠そうとする日本のサラリーマンは何も変わらないだろう”
“ネット心中にももはや驚かず、いびつな現実の中で生きる私たちと、本気で北朝鮮には自殺がないと信じている彼ら、一体どっちが幸せなのだろうか(中略)情報によって人がいかに変わるか、そのふたつのケーススタディを見せつけられているようだ、と北朝鮮報道を日本で見る自分に対して思う。”
“国のために死ね、なんて今の日本は言わないしそれよりは全然スケールが小さいけれど、くだらないプロパガンダなら四六時中やっている(中略)チュチェ思想のプロパガンダも資本主義のプロパガンダも無限反復や朝から晩まで、というやり方は同じで、北朝鮮を笑う人々は根底のところで同じ構造にハマっているという事実に笑えない”
“日本人にとっての北朝鮮問題と言えば真っ先に浮かぶのは拉致だけれど、北朝鮮の人にとって公式的にもっとも重要な問題は、この数十年変わらず飢餓でも独裁でもなく一貫して「統一」だ(中略)北朝鮮と日本、この両国の人は、絶望的なほど違う次元で話をしていることをお互いに自覚しないと、絶対に平行線のままだろうと思う。両者はお互いの怒りについて知らなさすぎ、それなのに、北朝鮮のマスゲームや律動体操なんかに妙に詳しかったりする日本人もいる。いい年をした大人までもがそういう文脈でしか話をできなかったりする。その反面、北朝鮮では小学生でさえ「統一への願い」というテーマで堂々と演説することができたりする。マニュアル通りの演説だとしても、そこに両国それぞれのいびつさを垣間見る(中略)北朝鮮で何度も感じたことがある、その種のうさんくささ。みんなが意図的に何かから目をそらしているような、そんな空気”
“北朝鮮だったら、国に忠誠を誓うかどうか、それだけで判断される。人民が「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」に分類され、さらに細かく五一の「成分」に分けられている。出身成分が悪ければ党に入ることもできず、大学に入学することもできない。そしてその五一成分の中で、自分がどこにいるのか、それさえもわからない。出身成分の悪い家に生まれてしまったら、その時点で人生は決まってしまう”
“拉致問題を知らなかった、或いは知っていても何もしてこなかった多くの日本人がまるで罪悪感に駆られるかのように、拉致問題を積極的に「消費」しはじめた(中略)その光景は、なんだか免罪符を求めているようにも私には見えた。そしてもちろん、私も免罪符が欲しかった(中略)テレビをつければ、相変わらず朝鮮中央放送の、ただ無気味なものを面白がるだけの映像が流れている。北朝鮮に関する新しい情報を、みんなこぞって知りたがってはそれを馬鹿にしたがる。拉致被害者の家族の人々は、北朝鮮への経済制裁を訴えている(中略)「経済制裁」という言葉を聞くたびに、私は胸の辺りが無性に苦しくなる。イラクで経済制裁がどんなものか、自分の目で見たからだ。イラクへの経済制裁は結局フセイン政権を脅かすことはなく、普通の人々だけが犠牲になった。経済制裁下でフセイン政権は一〇年以上持ち、その間、一般の人々だけが苦しみ抜いた(中略)だけど、誰も大きな声で拉致被害者側の人々の言うことに異を唱えられない”
“驚いたのは、そんな戦争と遠い日本から、百人近い人がイラク入りしていたことだ。イラクには約四〇ヵ国から反戦活動家たちが集結していたのだが(中略)日本人が一番多いという結果になった”
“イスラム教徒の男は、イスラム教徒以外の女には何してもいいと思っているふしがある(中略)一方でいたいけな子供の死があったかと思うと、次の瞬間にはただ単に性欲に目をギラギラさせたイラク人たちに出くわす。生と死のコントラストがあまりに濃すぎて頭がクラクラする”
“会見の中盤、ウダイさんは言った。
「二〇〇二年から二〇〇五年にかけて、イラクへの経済制裁の解除もありうる。しかし、アメリカが政治的な問題をしかけるという謀略も充分ありうる」
ウダイさんのその言葉通り、政治的な謀略はアメリカによってしかけられ、ウダイさんは殺された。そしてウダイさんの言う通り、イラクへの攻撃が一段落してすぐ、一〇年以上に亘ってイラクの人々を苦しめていた経済制裁は解除された。莫大な犠牲のもとに、あまりにも言い訳がましく(中略)あの頃、ウダイさんはどれだけ自分の運命をわかっていたのだろう”
“ウダイさんの命はアメリカによって一八億円と値段をつけられ、そしてその命は本当に一八億円で売られた(中略)そして少なくとも、日本はフセイン政権を終わらせることに賛同して、乗った。イラクの、今生きている関係ない人たちをもこれから殺すというプロジェクトに参加した(中略)イジメ自殺があったり、凶悪な少年犯罪があったりすると、「大人」たちはしたり顔で「命の大切さ」なんかを連呼する(中略)そしてそういうオヤジにも人を殺す少年にも私にも、明確な「命の値段」がついている。命の値段は計算できる。「死亡前一年間の年収×(1−生活費控除率)×(就労可能年数に対応する中間利息控除率)」。これが現体制で決まっている、私たちの命の値段の算出方法だ。学生の場合は平均年収で計算される。これが嫌なら、アメリカの目の仇になればいい。命の値段は殺されるリスクとともに億単位にまで吊り上がるだろう”
“「サダム・フセインが戦争前に六ヶ月分くらいの食料を配給したんですけど、そろそろ切れてくるんですよ。ちょうど治安の悪いこの時期と重なって(中略)それで法学者がジハード出しちゃった日には、天国に行けるんだからバンバン米軍襲撃しちゃうでしょうね。
向こうの新聞に米軍のインタビューが載ってたんですけど、そこには『見えない敵の中をうろついてる』って書いてありました。だから米軍はちょっとムカついただけで撃ったりするんですよ。パトロールの仕方見てたら襲い放題ですよ。怪しいって思った奴は撃っていいらしくて。あと夜歩いてる奴も撃っていい(中略)盗賊より米軍の方が怖い」”
“「イラクの人は、アメリカ人が嫌いなわけじゃないんですよ。それよりもホワイトハウスとか兵隊がムカつくわけなんですよ(中略)今回の戦争に関しては、目的は石油と武器の実験でしょうって言ってました。
あと、現地にいる米軍は何もやってない(中略)マシンガン持って、喧嘩売りながら戦車でドライヴしてるんですよ。あと爆撃ヘリで遊覧飛行したり、チグリス川をクルージングしたり、道路を封鎖したりとか」”
“「それでなくても国連には、経済制裁を認めて、その上戦争を止められなかったってことで相当ムカついてるわけで、そういう時に、何やってるかわかんないけどどうもコイツらのせいらしいってなると、キレる対象になると思うんですよ。
本当に国連と米軍は何をしてるのかわからない。例えば、サウジアラビア軍は野戦病院を作って、そこの警備をしてて、何やってるかがはっきりわかるんですよ。あと国連難民高等弁務官事務所とかもちゃんと仕事してる。だから、何をやってるか一目でわかるところは襲われる対象にはならないんですよ。
今シンナーがイラクの子供の間で流行ってるんですけど、日本のNGOで、如何にしてイラクのシンナー中毒の子供に絵を描かせるかとか、そんなことやってるとこもありましたからね。国連とかから金もらって。だから他の国連機関が何やってるかだいたい想像つくでしょ」”
“「次いつイラクに行くの?」
そう聞くと、ナヲキ君はその質問を帰りの飛行機で一緒だった韓国人青年にも聞かれたと言った。その質問に「米軍が出ていったら」と答えたら、ナヲキ君は言われたそうだ。
「お前馬鹿? 日本だって韓国だってあいつらまだ出ていってないじゃん」”
“イラク戦争では、六〇〇〇人から七〇〇〇人の人が死んだと言われている。
平和な日本では、毎年三万人の自殺者を生み出している。
イラクで射殺されるか、日本で自分に殺されるか、というナヲキ君の言葉がずっと耳に残っている(中略)私たちはどうすればたくましく生きていけるんだろう”
“この間、雑誌を見ていたら、四年前にイラクに行った時にガイドを務めてくれたイラク人男性がインタビューに応じていた。
私と同じ年くらいで、絶対に時間を守らなかったルーズな性格の太った彼は、雑誌に掲載された写真の中で少し寂しそうに笑っていた(中略)そんな彼が、バース党員外務省幹部で外国人を監視する任務を負っていたということを、私は日本の雑誌のインタビューで初めて知った(中略)現在三〇歳の彼は、一五歳の時にバース党に入党し、フセイン政権には疑いを微塵も持っていなかったという”
“あの時は、みんながサダム万歳だった。たとえポーズでも、そうしなければ生きていけなかった。それは一種の思考停止状態で、多くの人は他の何かを主体的に選ぶことはしないで良かった。
だけど今、イラクの人たちは自由な思考を与えられている。イラクにおけるサダム・フセインへの評価がこうもちぐはぐなのは、そっくりそのままみんなの戸惑いに見える(中略)
「例えば今、向こうで自暴自棄になって襲撃とかしてる人って、やることがないんですよ。襲撃してるような人はそれまで普通に生活していた人で、その生活がムチャクチャになって、ムカつくし、やることないし、仕事しようと思っても仕事もないし、仮に頭が良くてエリートだったとしても、そういう人はバース党だったから誰も相手にしてくれない。そうなるともう襲うしかないんですよ。
僕が国際赤十字に行った時もイラクの人たちがデモやってて、看護婦さんに何やってるのか、何を訴えているのかって聞いたら、『みんなデモ以外やることないからデモやってる』って言われました。そこで訴えていることも、車を返せとか、家を作れとか、メシを寄越せとか、そういうことなんです」”
“そして二〇〇三年一二月、サダム・フセインが拘束された。
生け捕りされたフセインは髪型もヒゲもそして現金所有というところまで、何もかもが麻原そっくりで私はそのどこかマヌケな既視感に目眩をこらえた。
フセインが拘束されても、イラクの治安はちっとも回復していない。そんなイラクに今度は自衛隊が派遣される(中略)
「え? みんなすげー志願してるよ。殺到してるよ。だって一日三万もらえるんだよ。しかも三ヵ月で帰って来られるらしいから三ヵ月で二七〇万だよ。給料とは別にだよ。すげーじゃん! その上帰ってきたら出世できるんだよ! すげーじゃんねえちゃん!」(中略)新聞などは、イラクに向かう自衛隊の「誇り」ばかりを強調する。だけど公式な取材では決して聞けない彼らの本音もまたここにある。「一日三万すげーじゃん!」だ。
「死んだら一億もらえるんだって」
私のその言葉に弟はまた「すげー!」と言ったけれど、次の瞬間、「あ、死ぬのか」とぼんやりした顔で言った”
| books | 2013.09.18 Wednesday | comments(0) | - |