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山井教雄「まんが 現代史」
初版'09年の講談社現代新書2025で、タイトルには「まんが」と謳ってますけど漫画じゃなくて風刺絵ですね…新聞に載ってるような、世相を皮肉った1コマ漫画っぽい戯画を豊富に織り込んで戦後〜現在の世界情勢を解説している本です。
勘の良い方ならサブタイトルの「アメリカが戦争をやめない理由」でお気付きでしょう、僕は本編最初の一文“1945年、人類史上最大の愚行、第2次世界大戦が終わった”でピンときましたよ…(あ、コイツはアカンやつや)ってね、偏見に満ちた独断で語るタイプ?
19世紀に世界の覇権を握ったイギリスから戦後はアメリカへと、大国主義は傲慢さと狡猾さも込みで引き継がれました…そのように考えてみると米英露の首脳が顔を揃えたヤルタ会談は、まさに戦後という新たなスタート地点だったかも。
しかし米英が信頼し期待した幻想は、ロシアが東欧を共産圏に引き込んで冷戦状態を作り出す結果を生み出したのでした…中條高徳の本ではロシアが単独で終戦間際に南侵したように書いてあった気がしましたけど、実はアメリカの要請だったんだから北方領土問題は今後も解決しないよなぁ。
新版SFアンソロジー「冷たい方程式」収録のアルフレッド・ベスター作「オッディとイド」に“あらゆる戦争が経済対立に根ざしているというのは周知の事実である(中略)紀元前のポエニ戦争は、ローマとカルタゴが地中海における経済的覇権をめぐって起こした金銭トラブルの最後の産物だった(中略)福祉国家と慈悲深い専制国家との違いはあまりない。危機におちいると、どちらも誠実きわまりない動機から、唾棄すべき行動に出る(中略)彼らはおたがいに自国民の保護しか眼中になかった”とあり、本書の内容にも通じる歴史的な普遍性を感じました。
日本の高度経済成長は「朝鮮特需」でマッカーサーが日本の民間企業を支援してくれた事と、続いてベトナム特需もあったからなんですね…日本が自力で復興したなんて思い込んでた自分が恥ずかしいです、だけどブッシュがイラクの戦後処理を甘くみたのも日本での成功例を勘違いしたせい?
冷戦の象徴だったベルリンは東西の分割線上ではなく、西ベルリンは東側の真ん中にある飛び地だったのね…ドイツとフランスの対立が2度の大戦を引き起こした事も知らなかったし、国連の安保理常任理事国は第二次大戦の戦勝国だから日本のバラ蒔き外交で入れる訳ないってのも道理だわ。
冷戦下、元連合軍最高司令官アイゼンハワーは「軍産複合体」の出現に警告を発していたけれど…結局は軍需成金が牛耳ったアメリカは、冷戦後も“景気刺激のために、どの大統領も例外なく戦争をやる”軍産ジャンキーと化したのでした。
ケネディを暗殺したCIAは、新自由主義経済を謳って中南米を政治家お抱え企業の植民地にしましたが…アフガンで学生を意味するタリバンを育成して楽しようとしたツケが冷戦後の中東で爆発、国庫を圧迫するけども軍産複合体には痛くも痒くもないんですね。
アフガン撤退を決めたゴルバチョフを引きずり下ろしたのは変化の痛みに耐えられない国民でしたが、パレスチナとの和平に動いたラビンを殺したのは平和よりも教義に忠実なユダヤ人でした…アメリカのキリスト教原理主義者はヨハネ黙示録に書かれた千年至福の「ユダヤ人がパレスチナに祖国を建設している」前提条件を守りたいから、イスラエルに対して異常なほどの忠誠心を発揮するのか!内戦状態のソマリアに冷戦時代の米ソが過剰供給した武器が貧しい漁民に出回って海賊化、イラクの反米化が呼び寄せたアルカイダはスンニ&シーア派のモスク破壊をアメリカに責任転嫁して宗派抗争を煽った…戦後の歴史で大活躍のCIA、ただ気になったのは著者の参考資料がほぼ全部戦争映画だっていう点です。笑
貧富を拡大する仕掛けの市場経済は周期的に恐慌を発生させ、世界恐慌で列強が採ったブロック経済政策が第二次大戦の火種となった…そこで社会主義的に政府が経済介入する修正資本主義が生まれたとか自分の無知を痛感した本書、ただしアメリカ(と新左翼思想)に偏り過ぎじゃないかな。
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勘の良い方ならサブタイトルの「アメリカが戦争をやめない理由」でお気付きでしょう、僕は本編最初の一文“1945年、人類史上最大の愚行、第2次世界大戦が終わった”でピンときましたよ…(あ、コイツはアカンやつや)ってね、偏見に満ちた独断で語るタイプ?
19世紀に世界の覇権を握ったイギリスから戦後はアメリカへと、大国主義は傲慢さと狡猾さも込みで引き継がれました…そのように考えてみると米英露の首脳が顔を揃えたヤルタ会談は、まさに戦後という新たなスタート地点だったかも。
しかし米英が信頼し期待した幻想は、ロシアが東欧を共産圏に引き込んで冷戦状態を作り出す結果を生み出したのでした…中條高徳の本ではロシアが単独で終戦間際に南侵したように書いてあった気がしましたけど、実はアメリカの要請だったんだから北方領土問題は今後も解決しないよなぁ。
新版SFアンソロジー「冷たい方程式」収録のアルフレッド・ベスター作「オッディとイド」に“あらゆる戦争が経済対立に根ざしているというのは周知の事実である(中略)紀元前のポエニ戦争は、ローマとカルタゴが地中海における経済的覇権をめぐって起こした金銭トラブルの最後の産物だった(中略)福祉国家と慈悲深い専制国家との違いはあまりない。危機におちいると、どちらも誠実きわまりない動機から、唾棄すべき行動に出る(中略)彼らはおたがいに自国民の保護しか眼中になかった”とあり、本書の内容にも通じる歴史的な普遍性を感じました。
日本の高度経済成長は「朝鮮特需」でマッカーサーが日本の民間企業を支援してくれた事と、続いてベトナム特需もあったからなんですね…日本が自力で復興したなんて思い込んでた自分が恥ずかしいです、だけどブッシュがイラクの戦後処理を甘くみたのも日本での成功例を勘違いしたせい?
冷戦の象徴だったベルリンは東西の分割線上ではなく、西ベルリンは東側の真ん中にある飛び地だったのね…ドイツとフランスの対立が2度の大戦を引き起こした事も知らなかったし、国連の安保理常任理事国は第二次大戦の戦勝国だから日本のバラ蒔き外交で入れる訳ないってのも道理だわ。
冷戦下、元連合軍最高司令官アイゼンハワーは「軍産複合体」の出現に警告を発していたけれど…結局は軍需成金が牛耳ったアメリカは、冷戦後も“景気刺激のために、どの大統領も例外なく戦争をやる”軍産ジャンキーと化したのでした。
ケネディを暗殺したCIAは、新自由主義経済を謳って中南米を政治家お抱え企業の植民地にしましたが…アフガンで学生を意味するタリバンを育成して楽しようとしたツケが冷戦後の中東で爆発、国庫を圧迫するけども軍産複合体には痛くも痒くもないんですね。
アフガン撤退を決めたゴルバチョフを引きずり下ろしたのは変化の痛みに耐えられない国民でしたが、パレスチナとの和平に動いたラビンを殺したのは平和よりも教義に忠実なユダヤ人でした…アメリカのキリスト教原理主義者はヨハネ黙示録に書かれた千年至福の「ユダヤ人がパレスチナに祖国を建設している」前提条件を守りたいから、イスラエルに対して異常なほどの忠誠心を発揮するのか!内戦状態のソマリアに冷戦時代の米ソが過剰供給した武器が貧しい漁民に出回って海賊化、イラクの反米化が呼び寄せたアルカイダはスンニ&シーア派のモスク破壊をアメリカに責任転嫁して宗派抗争を煽った…戦後の歴史で大活躍のCIA、ただ気になったのは著者の参考資料がほぼ全部戦争映画だっていう点です。笑
貧富を拡大する仕掛けの市場経済は周期的に恐慌を発生させ、世界恐慌で列強が採ったブロック経済政策が第二次大戦の火種となった…そこで社会主義的に政府が経済介入する修正資本主義が生まれたとか自分の無知を痛感した本書、ただしアメリカ(と新左翼思想)に偏り過ぎじゃないかな。
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| books | 2014.09.26 Friday | comments(0) | - |