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「チャンス」のピーター・セラーズが主演した'68年のMGMコメディ、冒頭の劇中劇で状況が分からないうちから笑わされました!
インドから来た駆け出し俳優に扮して、Mr.ビーンの原点か?っていう密室サイレント・コメディ・・・から騒ぎの果てが微妙にセンチメンタルなオチ、という抜け感もまた洒落てますよ。
紹介記事【2017.08.02】
デイブは宇宙船 [DVD]
デイブは宇宙船 [DVD] (JUGEMレビュー »)

「現代文化を異文化の視点で描く」という「星の王子 ニューヨークへ行く」パターンを、もう一捻りして「異星人集団のSF冒険活劇」に練り込んだ本作。
時代遅れの事前情報で人工衛星から計算外、妙に多機能なデイブ・ミン・チャン号・・・原始的で野蛮な文明に毒されていく乗組員、そして地球人と宇宙船のロマンス!
個人的にはクローゼットで大笑い、Old Navyネタも可笑しいな・・・「キャプテン・クランチ」ネタやアイスクリーム屋と間違われるコンチなスーツ姿など、分かればウケる要素も。
紹介記事【2017.03.14】
コンボイ [DVD]
コンボイ [DVD] (JUGEMレビュー »)

故サム・ペキンパー監督作では評価の低い本作、分かってねーよなぁ。
70年代に隆盛したカー・アクション的ロード・ムービーの流れを汲みつつも、救世主の物語が仕込まれてるのは何故?
少なくとも当時のアメリカにおけるトラック運転手という生業の社会的地位はド底辺、その連中からエクソダスが始まり・・・賞賛から憎悪へ豹変する世間に諦めない男と男、死して英雄となる世の中を笑うラストは痛快の一語!
紹介記事【2017.01.17】
PlayStation 2 ミッドナイト・ブラック SCPH-50000NB【メーカー生産終了】
PlayStation 2 ミッドナイト・ブラック SCPH-50000NB【メーカー生産終了】 (JUGEMレビュー »)

正直、ゲームはこれで未だに事足ります。
メーカーには悪いけど、精彩グラとかオンラインとか不要だし。笑
紹介記事【2017.04.21】
勝手に観光協会 勝手に御当地ソング47+1
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勝手に観光協会
みうらじゅん&安斎肇による歌とコーラスで、全国各地の郷土愛を歌い上げる本作。
モチーフ探しの観光後、旅館の角部屋で共同作詞&レコーディング…テレコ直録りの部屋鳴りがまたトリップ感を昂ぶらせます。
10年越しの生みの苦しみは、ラスト沖縄の不自然なフェードアウトで昇天したかのよう。笑
[Disc1]紹介記事【2017.06.07】
[Disc2]紹介記事【2017.06.17】
ミッドナイト・ドリーム
ミッドナイト・ドリーム (JUGEMレビュー »)
マンハッタンズ
日本版ジャケの、煌めく摩天楼の夜景がピッタリな甘々コーラス。
ドゥワップ時代から息の長い男声グループによる、ブラック・コンテンポラリーなA.O.R.盤です。
正直、こういう毒にも薬にもならんようなベタさって本来は苦手な筈なんですが・・・1曲目でガッチリ掴まれましたよ、改めて聴いてみても非の打ち所がありません。
紹介記事【2017.01.31】
Discovery
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藤田千章,佐藤竹善,アンドリュー・オセロット,クリアー・フィッシャー,小林正弘,キャット・グレイ,西村智彦
今となってはジャケのCGがチープですけど、本作のサウンド・デザインは今でも驚異的です・・・楽器の各パートやフレーズと、イコライジングによる音域(周波数)特性の強弱とを緻密に計算してミックスされている気が。
特に最初の2曲に顕著で、更にラスト2曲ではデヴィッド・T・ウォーカーのギターをフィーチャーした佐藤竹善A.O.R.という意外性も。
紹介記事【2017.03.09】
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久々に腹の皮が捩れるほど笑わせてもらいました、北海道ローカル局には勿体無いほど優秀なマジメ君の斜め上を行く“バカ枠入社”の花子さん・・・放送事故か奇跡の視聴率かとハラハラ、腹の皮がw
紹介記事【2017.01.19】
ローグギャラクシー ディレクターズカット PlayStation 2 the Best
ローグギャラクシー ディレクターズカット PlayStation 2 the Best (JUGEMレビュー »)

通常版に様々な新要素を追加し、ゲームバランスも再調整された本作・・・いわゆるクソゲー要素が低減したかは判りませんが、新たに水の星アリスティアへ行けるようになり嬉しい!
ただし武器が増えた分、その合成ルールが通常版から一部変更されて思い通りにいかないもどかしさも。
紹介記事【2017.08.16】
もののけ姫 [DVD]
もののけ姫 [DVD] (JUGEMレビュー »)

世間では不当なほど評価が低いようですが、宮崎駿のジブリ作品では本作こそが最高傑作です。
鎮西の乙事主の“このままでは わしらはただの肉として 人間に狩られるようになるだろう”という言葉が、やがて“小さくバカになりつつある”猪たちを狩りもせず流れ作業で食らう千尋の親に繋がるのです。
紹介記事【2017.04.29】
Zill O'll ~infinite~
Zill O'll ~infinite~ (JUGEMレビュー »)

PS版からのグラフック向上と、仲間キャラクターやイベントの増加で分岐するエンディングもアップした本作。
出身地によって変化する展開、イベントでの対処次第で敵にも味方にもなるキャラクター。
そして奥深い歴史設定が反映された人物造形など、何周しても飽きのこないゲームソフトです。
紹介記事【2017.11.15】
EMOTION the Best 機動警察パトレイバー2 the Movie [DVD]
EMOTION the Best 機動警察パトレイバー2 the Movie [DVD] (JUGEMレビュー »)

前作の(大規模ハッキングによるサイバー・テロ)が絵空事ではなくなった現在と、フェイク情報に自衛隊と警察が翻弄されて東京が戒厳令下に置かれる本作。
冒頭の場面は、PKO日報問題で揺れる現在が25年も前に描かれた本作に重なります。
ハードボイルドな展開に織り込まれた大人の恋路に、古典芸能の趣きを漂わせた演出は意味深です。
紹介記事【2017.04.30】
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正直に言って、この作者の絵柄は苦手です・・・でも、本作にはこの絵柄しかない!って感じ。
だから苦手な方にも読んでみてほしいです、あの戦争について語らなかった人の気持ちが伝わってきます。
そしてラストの、現代に突き刺さる批評に思いを巡らせてほしいです。
紹介記事【2017.06.20】

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最近読んだ本
宮本常一「忘れられた日本人」

初版'84年の岩波文庫で、かなり前にAmazonで購入したものです…そもそも如何なる経路で本書の紹介ページまで辿り着いたのかも謎ですが、かつて松谷みよ子の本で読んだ採話や民俗学的な聞き取りをイメージしていたのかもしれません。
ですが開いてみたら「遠い親戚の家で大人たちの四方山話に付き合わされる」といった感じで、その座に馴染むまで門外漢には取っ付きにくかったのです…とりとめがなく、切り口が見えない展開に部外者が首を突っ込んでいるようでした。
それで後回しにしていたのですが、改めて開いたら最初の時よりは座に馴染んだのか割とスラスラ読めて。

何だか不思議です、本書自体が村の古老のようで。
こちらが(なんだコレ?)的な引いた態度だと文章も余所々々しく閉ざされていたのに、向かい合って前のめりに拝聴する姿勢になると風景が浮かんでくるのね。
著者の名前すら知らないまま購入したのですが、本書は主に対馬や周防大島や伊予といった西日本の村落で聞き取った話から構成されています…本書の大半は著者自身も編集委員を務めた「民話の会」の機関誌に連載されたそうで、本業の傍ら実に'39年から戦中戦後と日本各地を歩き在野の同志と交流したのだとか。
農家に泊めてもらうので、米を持参で旅をしたそう。

本書の中には、未だ吉幾造の歌以上に文明の及ばない日本の村があります…余所を知らず、日曜休日もない暮らしが残されています。
正直に申し上げますと、著者が生涯を賭けた情熱に如何程の意義があったのか僕には図りかねるのですが。
それでも現在形の文章で記された「忘れられた日本人」に触れられる事は、非常に得難い体験であります。
より具体的に言えば、古臭く陳腐な表現ですが「元気が出る」のです…分断された個として認識している自分が連綿と続いてきた過去と接続される感覚は、深い根っこに繋がるような安心感を与えてくれるのです。

個人的に印象強かったのは「土佐源氏」の項で文字通り河原乞食の元ばくろう(馬喰/博労)という老爺が語る半生ですね、貞操観念が戦後の幻想に思えてくる“風流”具合も結構ですな…あと「土佐寺川夜話」の項でレプラ(ハンセン病?)患者や盗人など人目を避ける人々毎に“そういう者のみの通る山道”が密かに存在したという話からは縄文人や山伏の歩いた尾根道を連想し、サンカ以外にも様々な知られざる文化が歴史の陰に息づいていただろう事を思わせてくれます。
西日本の伝承が集落単位であり、東日本は家(血族)単位であるとの指摘も新鮮でした…ともあれ、一度読んだ位では手放せません。


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以下、個人的メモ。
“日本中の村がこのようであったとはいわぬ。がすくなくとも京都、大阪から西の村々には、こうした村寄りあいが古くからおこなわれて来ており、そういう会合では郷士も百姓も区別はなかったようである(中略)対馬ではどの村にも帳箱があり、その中に申し合わせ覚えが入っていた。こうして村の伝承に支えられながら自治が成り立っていた”(「対馬にて」p.19)

“山の中でまったく見通しもきかぬ道を、あるくということは容易でない(中略)歌声さえきいておれば、どの山中でどうなったかは想像のつくものだ(中略)民謡が、こういう山道をあるくときに必要な意味を知ったように思った”(「対馬にて」p.24)

“一人がうたって息がきれかかると次の人がうたう(中略)次第にセックスに関係のある歌詞が多くなる(中略)夜がふけて大きい声でうたうものだから近所の人も家のまえに群がって来た。そうして三時ごろまでうたいつづけたのである(中略)歌合戦というものがどのようなものであったかおぼろ気ながらわかったような気がした”(「対馬にて」p.34)

“その村では六十歳になると、年より仲間に入る。年より仲間は時々あつまり、その席で、村の中にあるいろいろのかくされている問題が話しあわれる。かくされている問題によいものはない。それぞれの家の恥になるようなことばかりである。そういうことのみが話される。しかしそれは年より仲間以外にはしゃべらない。年よりがそういう話をしあっていることさえ誰も知らぬ”(「村の寄りあい」p.37)

“他人の非をあばくことは容易だが、あばいた後、村の中の人間関係は非を持つ人が悔悟するだけでは解決しきれない問題が含まれている(中略)年とった物わかりのいい女の考え方や見方が、若い女たちの生きる指標になり支えにもなった。何も彼も知りぬいていて何も知らぬ顔をしていることが、村の中にあるもろもろのひずみをため直すのに重要な意味を持っていた(中略)家督を子供にゆずって第一線から退き、隠居の身になって、世間的な責任をおわされることのなくなった老人にして初めて可能なことであった”(「村の寄りあい」p.39)

“年よりは愚痴の多いもので、つい嫁の悪口がいいたくなる。そこでこうした所ではなしあうのだが、そうすれば面と向っ(原文ママ)て嫁に辛くあたらなくてもすむという(中略)わしらも嫁であった時があるが、姑が自分の悪口をいったのを他人から告げ口されたことはないという。つまりこの講は年よりだけの泣きごとの講だというのである(中略)自らおば捨山的な世界をつくっているのである(中略)東北から北陸にかけては、老人が年をとるまで家の実権をにぎっている場合が多い(中略)年寄りの隠居制度のはっきりしている所では、年寄りの役割もまたはっきりしていた”(「村の寄りあい」p.43)

“村を構成する人々の大半が、年齢的なグループに参加している場合(中略)その中では甲乙をつけないのが重要な条件になる(中略)年齢階梯制は西日本に濃くあらわれ、東日本に希薄になり、岩手県地方では若者組さえも存在しなかった村が少く(ママ)ない”(「村の寄りあい」p.53)

“村の中に道が一ヵ所ややひろくなっている所があり、そこを辻とよんでいるが、この辻を持つ村はたいてい辻寄りあいのおこなわれた村であり、非血縁的な地縁結合がつよい(中略)合議制が見られたというのはこうした村々であって、それは必ずしも時代的な変遷からのみ生まれたとは見難い”(「村の寄りあい」p.53)

“年齢階梯制の濃厚なところでは隠居制度がつよくあらわれるのが普通であるが(中略)これを持ちつたえさせたのは、非血縁的な地縁共同体にあったと思われる。そういう村では、村共同の事業や一斉作業がきわめて多かった(中略)そこでできるだけ早く子に嫁をもらい、後を子にゆずって自分は家の仕事に精出す方法が生れ(ママ)た(中略)開墾の余地のあるところではこうした若隠居の例が濃厚にあらわれている。そして隠居分家や末子相続の制度がこれにともなっているのである(中略)年よりは村の政治的な公役から早く手をひくが、祭礼行事などにはたずさわる。そういう意味でなお村の公につながっている。そしてまた村の寄りあいなどにも戸主にかわって出ていくごとが多い(中略)日本中世の文学が隠者によって保持せられて来たことと、村々の隠居制度には共通するものが多分にあると見られる。村においては隠居たちが文化伝承の役割をになっていたのである”(「村の寄りあい」p.54)

“わしらあんまり世間をしておらんもんで、あんまり話を知りません(中略)昔にゃァ世間を知らん娘は嫁にもらいてがのうての、あれは竃の前行儀しか知らんちうて、世間をしておらんとどうしても考えが狭まうなりますけにのう(中略)土佐の奥はわたしら行きませだった。土佐は鬼の国ちうて(中略)女四国というのは土佐の国をぬいた三国でありました”(「女の世間」p.110)

“田植をしても皆モンペをはくようになったし、編笠が経木の帽子になったし、田植は女の仕事ときまっていたのに男も手伝うようになりましたいの。しかし田植がたのしみで待たれたような事はなくなりました”(「女の世間」p.124)

“植縄をひいて正条植をするようになって田植歌が止んだ。田植歌が止んだからと言ってだまって植えるわけではない。たえずしゃべっている(中略)田植歌の中にもセックスをうたったものがまた多かった。作物の生産と、人間の生殖を連想する風は昔からあった(中略)性の話が禁断であった時代にも農民のとくに女たちの世界ではこのような話もごく自然にはなされていた(中略)近頃はミカンの選果場がそのよい話の場になっている(中略)エロ話の上手な女の多くが愛夫家であるのもおもしろい”(「女の世間」p.126)

“人がほんとに住みついたのが明治二十年頃、その頃には入江の向う(ママ)側によく狐火がもえていたものでごいした。あんまり気持のええもんではなかった。それにまた、ほんに静かな晩に、天地もさけるような音のすることがあった。天道法師が飛行なさるのじゃろうなんどいうちょりましたが、明治三十年頃になると家も百戸にふえ(中略)狐火も天道法師の飛行の音もせんようになってしまいやした”(「梶田富五郎翁」p.192)

“市五郎は実によく働いたが財産はできなかった(中略)その上火事で家をやいた。近所の子供が火あそびをしたのが家について、三軒やけ、その上牛を焼死させた。子供の火なぶりではあっても、火もとというのでやはり村に対してつつしまねばならぬ(中略)死んだ牛のために小さい瓦製のほこらをつくった。これを牛荒神としてまつったが(中略)皮膚病がなおるというので、まいる人が多く、いつのまにか私のうちからの管理をはなれて、村人が勝手にまつるようになった(中略)祖父が死んだあくる日、近所の老人が祖父名義の貯金通帳をもって来た。(中略)通帳をあずかっていた老人は、その昔私の家をやいた少年であった”(「私の祖父」p.197)

“祖父にあたる人は長男であったのが伯父の家へ養子に来た。気らくな人で、生涯めとらず、すきな歌をうたいのんきに仕事をして一生をおわったらしい”(「私の祖父」p.199)

“市五郎の家内は毎朝氏神さまへまいった。出稼者のある家はどこでもこうして毎朝早く神まいりをしたものである(中略)カラスはしらせをもって来てくれる鳥だと信じられていた(中略)ところが、どうした事かあるときカラスなきが大へんわるくて御飯もろくにたべぬことがあった。息子はその頃フィジーで病気にかかっていたのである”(「私の祖父」p.199)

“市五郎は犬をつれて村境の山まですてにいった。「そだててやりたいが、みんながいじめるからかわいそうでならぬ。このさきには親切にしてくれる家もあろうから、これからさきへいって見い」と人にさとすように話しかけると、クロはそのままそこにいた(中略)それから何年かの後、島の西の方の村へいって、かえる途中で日がくれた(中略)困って道にじっとうずくまって休んでいると、一匹の黒犬があらわれた。どうもクロによく似ている。その犬のあとをついていくと、しばらくして農家のあかりが見えて来た。ほっとして気がつくともうクロはいなかった”(「私の祖父」p.200)

“仏まいりは先祖礼ともいったが、だまってその家へはいって仏壇のまえへいって拝み、それからその家の人に「ええ盆でごいす」と挨拶した。正月ならば「ええ春でごいす」といってはいっていって、それから仏壇をおがみ、正月の挨拶をしたが、祖父の若いころには「おおとびでごいす」といってはいっていくと、家の人が「もっておいでんされ」と答える。そして家の中で「ええ春でごいす」といったという”(「私の祖父」p.208)

“昔は遊芸の徒の放浪は実に多かった。それは船がすべてただ乗りできた上に、木賃宿もたいていはただでとめたからである(中略)だから「芸は身を助ける」と言われた”(「世間師(1)」p.235)

“煙硝蔵がやけて二、三日たつと、浪人者がたくさん落ちてきた(中略)侍の着物や刀や鉄砲をかたにおいて、蔵王峠をこえて国の方へかえっていった(中略)侍どもは東国の方の者が多かった(中略)安倍川べりへついていた小船へ身なりのよい侍が三、四人どやどややってきて、天保山の沖まで船を出してくれという。その態度が横柄なので、船頭が啖呵をきると「危急の場合じゃ、たってたのむ」というので(中略)軍艦までつれていくと、船へ上っ(ママ)た侍が、「船頭御苦労であった。わしは徳川慶喜じゃ」と言った(中略)明治元年五箇条の御誓文の「各(おのおの)その志をとげ、人心をして倦まざしめん事を成す」というのをとりまちがえて、方々のカカヌスミにいったのも、それから間もない頃であった”(「世間師(2)」p.241)

“こうして別に家にかえる必要もなかったので、知るべをもとめて、つぎからつぎへ旅をした。大川という人は易者をしてあるいても土地土地の人情風俗をよくしらべては帳面にかきとめた。それをまた行く先々ではなしてやる。金をためることもしなかった(中略)大川という人は見聞がひろく、何でも書きとめているので、旅先の、そうしたいろいろの話をしてやる。大ていの人が納得していく百姓や漁師に満足のいく易をたてるには大へんな知識が必要で、夜辻に立ってやるような易は易のうちにはいらぬという”(「世間師(2)」p.252)

“翁は一人旅の時は,一人ものの気らくさでちょいちょい女に手を出した(中略)ただその時だけの交わりでかえって女は気がはれたり、元気が出たりする(中略)信濃巫女と旅さきで馴染になったら、どうしてもはなれぬという。はなれたら呪い殺してやるというので翁もすっかり弱りはてた。そして方々へにげあるいた。眼通力のある女でどこへにげても見つけてやってきた(中略)京都あたりにはおっとりとして風流のわかる女がたくさんいた。あるとき宿屋で気品のある女中がきたので、歌を書いてお膳の上にのせておいた。するとお膳をひきにきたとき、それをちょっと見て帯の間にはさんで出ていった。何も言わなんだが、夜ねていると、そっとやってきた。気品のある女には恋歌を書いてわたすと大ていは言うことをきいてくれたものである。しかし、それも畿内を出るとあまり通用しなかった”(「世間師(2)」p.254)

“ところどころで人情風俗はかわっているが、土地のやせて生活のくるしいところが人情はよくない”(「世間師(2)」p.256)

“明治から大正、昭和の前半にいたる間、どの村にもこのような世間師が少なからずいた。それが、村をあたらしくしていくためのささやかな方向づけをしたことはみのがせない。いずれも自ら進んでそうした役を買って出る。政府や学校が指導したものではなかった”(「世間師(2)」p.259)
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