スキャナー・ダークリー [Blu-ray]
スキャナー・ダークリー [Blu-ray] (JUGEMレビュー »)
俳優の仕草や表情をアニメとして再構築する、非常に手間の掛かった映像が生理的に苦手な人もいるでしょうね。
しかしながら出演者も(誰々が出てるから)という理由で観て欲しくはないでしょう、自伝的要素の強い原作を尊重した結果としてのスキャニメーションは実に効果的です。
意義を見出せない業務に延々と従事させられる主人公、彼の破滅を前提とした麻薬撲滅作戦…小さな政府がもたらした民間委託の陥穽、委託された組織間のマッチポンプは緩いディストピアですが。
どこまでが虚構でSFなのか、エンディングには賛否が分かれそう。
紹介記事【2019.07.27】
ブレイク・ビーターズ [ ゴードン・ケメラー ]
ブレイク・ビーターズ [ ゴードン・ケメラー ] (JUGEMレビュー »)
旧東独、といっても今じゃ通じなさそうですが…80年代の社会主義国でヒップホップに目覚めちゃった若者と、彼らの活動を体制翼賛に取り込もうとする当局との丁々発止を描く青春コメディ。
飼い慣らそうとする権力側と調子を合わせつつ苦悩する主人公たち、ベルリンの壁が崩壊して彼らを待ち受けるラストのほろ苦さとタフさに男泣きです。
自分でいる事を描いている点で、英国のサルサ映画「カムバック!」と併せてオススメ。
紹介記事【2019.11.02】
ダーリン・イン・ザ・フランキス 1《完全生産限定版》 (初回限定) 【Blu-ray】
ダーリン・イン・ザ・フランキス 1《完全生産限定版》 (初回限定) 【Blu-ray】 (JUGEMレビュー »)
荒廃した世界で生き残りを賭けて地底人と戦う少年少女、その謎が明らかになるにつれ絶望の色は増すばかりですが…絵空事に潜む「茶色の朝」の未来、大人目線で子供たちの希望を切に願ってしまいました。
次の世代のために何が出来るだろう、この気持ちを失わずにいたいです。
紹介記事【2019.08.28】
月曜日の友達(1-2巻 全巻) 全巻セット
月曜日の友達(1-2巻 全巻) 全巻セット (JUGEMレビュー »)
中学生になったばかりの頃の、世界の拡がりに戸惑う姿は性別や世代を超えて響きますね。
作画力もストーリーテリングも卓越してます、些細な一瞬を捉える巧さが。
忘れていた何か、忘れたくなかった何か…最後のコマに、胸が苦しくなりました。
紹介記事【2019.11.11】
TVアニメ『プラネット・ウィズ』オリジナルサウンドトラック [ 田中公平 ]
TVアニメ『プラネット・ウィズ』オリジナルサウンドトラック [ 田中公平 ] (JUGEMレビュー »)
(↑※サムネイルのリンクはサントラにしています)
所謂スピリチュアルなストーリーでありながら、どこか70年代アニメっぽいお約束とフォーマットをごちゃ混ぜにして力技で着地させたような奇想天外さが独特。
戦隊ヒーローに学園モノ、ジャンプ的な熱血インフレ勝負など…ネタの重ね掛けでも訳分からなくならない見事な構成、思いがけずラストに泣かされました。
正義のあるところに悪がある、よって正義は愛ではない…ならば善とはなんなのか? 先ずはご覧あれ。
紹介記事【2019.09.10】
ポルノ☆スターへの道 [ ニック・スウォードソン ]
ポルノ☆スターへの道 [ ニック・スウォードソン ] (JUGEMレビュー »)
ラジー賞を独占した下ネタ満載ムービー、とりあえず下品ですけど線引きはキッチリしてますね…笑わせる内容は、少なくとも男性なら他人事じゃないというか。
女性同士の巨乳幻想みたいなね、目の付け処が上手いなぁと。
まぁ万人向けではないにせよ、僕は感心しつつ大笑いしました。
紹介記事【2019.10.17】
夜長姫と耳男 (岩波現代文庫) [ 近藤ようこ ]
夜長姫と耳男 (岩波現代文庫) [ 近藤ようこ ] (JUGEMレビュー »)
原作者の作品は知らないので、本作は衝撃的でした…こんな物語が書かれていたのかと、まるで伝承の聞き書きか夢を書き起こしたような浮遊感!
印象としては南伸坊が中国の怪異譚を漫画にした「仙人の壺」に近い、無闇に説明しようとしない描線のアッサリ感が素晴らしいです。
空白の多さに、却って想像力を掻き立てられました。
紹介記事【2019.11.25】
さよならの朝に約束の花をかざろう 通常版 [Blu-ray]
さよならの朝に約束の花をかざろう 通常版 [Blu-ray] (JUGEMレビュー »)
不老不死というか不死者の物語にハマっているとはいえ、ファンタジー世界が舞台だとなぁ…と思ってましたが、不死者の(一般的な寿命の人間社会で生きる哀しみ)というツボを丁寧に描いていて好感が持てました。
寓話的なラストが作品世界と相まって、爽やかに切ないです。
紹介記事【2019.09.23】
おとなのけんか [ ジョディ・フォスター ]
おとなのけんか [ ジョディ・フォスター ] (JUGEMレビュー »)
血生臭い原題の割に、ほぼダイニング一間で完結している会話劇です。
子供の喧嘩に親が出て、大人同士で和やかに話し合って解決する目論見が破綻してエスカレート。
隣人を愛せれば戦争なんて起きない訳で、そんな皮肉な原題と裏腹に子供同士は親心を知らず…淡々としてますが大いに笑わせてくれます、個人的にはオススメ。
紹介記事【2019.10.22】
【中古】 山本耳かき店 ビッグCスペシャル/安倍夜郎(著者) 【中古】afb
【中古】 山本耳かき店 ビッグCスペシャル/安倍夜郎(著者) 【中古】afb (JUGEMレビュー »)
耳かき店ブームの火付け役、なんて書いては申し訳ないのですけども…決してブームに便乗した後追いではない、と。
穏やかな時間の流れる小さな町で、耳かき屋さんを訪れる客の脳内イメージが秀逸です。
こんな表現があったのか、こんな漫画があったのかと目からウロコ耳から(略)。
紹介記事【2019.12.23】
グラン・プリ [Blu-ray]
グラン・プリ [Blu-ray] (JUGEMレビュー »)
最初はソール・バスの映像分割がスタイリッシュというより情報過多に感じましたが、それが後から効いて来るんですね…世界各地を転戦するF1レーサーと彼らを取り巻く人間模様が主軸ながら、走行シーンも見甲斐があります。
クールなドラマと60年代のムードが、ダンディな三船敏郎も含めて現代とは別世界のようです。
紹介記事【2019.12.21】
絵はがきにされた少年 [ 藤原章生 ]
絵はがきにされた少年 [ 藤原章生 ] (JUGEMレビュー »)
アフリカに対する先入観や固定観念が、ことごとく覆されます…偏見を持たないように心掛けていたつもりでも、日本にいて伝わってくる情報自体にバイアスが入っている訳ですが。
西欧支配の呪縛に歪められた各地の民族性や搾取の構造など、日本では見えにくい暗部が著者の目を通して見えてくるようで。
アフリカの話であり、同時に現代の実像でもあるのでは?と。
紹介記事【2019.09.1】
【中古】 マンガでわかる 戦後ニッポン /手塚治虫(著者),水木しげる(著者),つげ義春(著者),はるき悦巳(著者),ちばてつや(著者) 【中古】afb
【中古】 マンガでわかる 戦後ニッポン /手塚治虫(著者),水木しげる(著者),つげ義春(著者),はるき悦巳(著者),ちばてつや(著者) 【中古】afb (JUGEMレビュー »)
現代に至る国内の移ろいを漫画に語らせる好企画アンソロジーです。
漫画にしか出来ない表現は、例えば三輪自動車が走る風景でありリンチされる米軍の操縦士であり…基本的に主観視点であるが故の、俯瞰の効く文学表現よりも接地した仮想体験なのかも。
いわば漫画こそが伝え得た戦後の一片、切り口を変えて続けてもらいたいですね。
紹介記事【2019.12.12】
あきれたあきれた大作戦 [ ピーター・フォーク ]
あきれたあきれた大作戦 [ ピーター・フォーク ] (JUGEMレビュー »)
笑いって鮮度があると思ってました、本作を観るまでは。
先が読めずに引き込まれましたが、確かに繰り返し観たくなるかも…計算されたシナリオが効いた笑いと、映像的な古さもまた味わい深いです。
スタンダードでバカバカしくて無駄のない、意外な傑作。
紹介記事【2019.12.10】
人気マンガ・アニメのトラウマ最終回 極限編 [ 鉄人社編集部 ]
人気マンガ・アニメのトラウマ最終回 極限編 [ 鉄人社編集部 ] (JUGEMレビュー »)
面白可笑しい切り口で紹介されてるので、ファンの方にしてみれば物申したい点も多々ありそうですが。
様々な事情から意外な最終回を迎えていた、有名な作品の数々に先ずビックリ…知って何かの役に立つ訳ではありませんけど、やはり切り口が面白いのですよ。
紹介記事【2019.09.24】
【国内盤CD】【ネコポス送料無料】ファウンテインズ・オブ・ウェイン / トラフィック・アンド・ウェザー
【国内盤CD】【ネコポス送料無料】ファウンテインズ・オブ・ウェイン / トラフィック・アンド・ウェザー (JUGEMレビュー »)
「Stacy's mom」の青春パンクをイメージしてたら好い意味で裏切られました。
どこかSDP「スチャダラ外伝」に通じる旅アルバム、共通する根っこは世代なのかグローバル環境なのか…しかしELOっぽさを連想させるサウンドも厭味なく無理して頑張ってない感じだし、三人称のスキットみたいに様々な切り口で綴られる旅の寸描が詩的。
パッキング上手で飽きさせない仕上がりかと。
紹介記事【2019.07.08】
【中古】[PS2]ローグギャラクシー ディレクターズカット(Rogue Galaxy Director's Cut)(20070321)
【中古】[PS2]ローグギャラクシー ディレクターズカット(Rogue Galaxy Director's Cut)(20070321) (JUGEMレビュー »)
無印版も僕は楽しめましたが、ダレ要素を改善して全体的にボリューム・アップしておりオススメです。
難を言えば、このDC版では攻略本が出てない事ですね…特に武器の合成レシピが違っているし、追加武器はノーヒントで試行錯誤の連続に。
水の惑星にある3連宝箱は、多分エリアボスに乗って飛び移らなきゃ取れないと思うので、これからプレイする方は気を付けてね!笑
紹介記事【2018.07.19】
【中古】PS2 スターオーシャン3 Till the End of Time
【中古】PS2 スターオーシャン3 Till the End of Time (JUGEMレビュー »)
ディレクターズ・カット版が出てるようなので、そちらをオススメします。
僕も終盤でメニュー画面を開こうとしてブラックアウトや異音と共に「ディスクからデータを読み込み中です」と表示されたままフリーズでプレイ断念中です。笑
リアルタイム・バトルの忙しさは好みの問題として、城下町などの雰囲気が最高!
中世レベルの惑星に来た主人公がハイテク宇宙人側、という立ち位置はユニークで楽しめました。
紹介記事【2018.07.25】

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最近読んだ本
宮本常一「忘れられた日本人」

初版'84年の岩波文庫で、かなり前にAmazonで購入したものです…そもそも如何なる経路で本書の紹介ページまで辿り着いたのかも謎ですが、かつて松谷みよ子の本で読んだ採話や民俗学的な聞き取りをイメージしていたのかもしれません。
ですが開いてみたら「遠い親戚の家で大人たちの四方山話に付き合わされる」といった感じで、その座に馴染むまで門外漢には取っ付きにくかったのです…とりとめがなく、切り口が見えない展開に部外者が首を突っ込んでいるようでした。
それで後回しにしていたのですが、改めて開いたら最初の時よりは座に馴染んだのか割とスラスラ読めて。

何だか不思議です、本書自体が村の古老のようで。
こちらが(なんだコレ?)的な引いた態度だと文章も余所々々しく閉ざされていたのに、向かい合って前のめりに拝聴する姿勢になると風景が浮かんでくるのね。
著者の名前すら知らないまま購入したのですが、本書は主に対馬や周防大島や伊予といった西日本の村落で聞き取った話から構成されています…本書の大半は著者自身も編集委員を務めた「民話の会」の機関誌に連載されたそうで、本業の傍ら実に'39年から戦中戦後と日本各地を歩き在野の同志と交流したのだとか。
農家に泊めてもらうので、米を持参で旅をしたそう。

本書の中には、未だ吉幾造の歌以上に文明の及ばない日本の村があります…余所を知らず、日曜休日もない暮らしが残されています。
正直に申し上げますと、著者が生涯を賭けた情熱に如何程の意義があったのか僕には図りかねるのですが。
それでも現在形の文章で記された「忘れられた日本人」に触れられる事は、非常に得難い体験であります。
より具体的に言えば、古臭く陳腐な表現ですが「元気が出る」のです…分断された個として認識している自分が連綿と続いてきた過去と接続される感覚は、深い根っこに繋がるような安心感を与えてくれるのです。

個人的に印象強かったのは「土佐源氏」の項で文字通り河原乞食の元ばくろう(馬喰/博労)という老爺が語る半生ですね、貞操観念が戦後の幻想に思えてくる“風流”具合も結構ですな…あと「土佐寺川夜話」の項でレプラ(ハンセン病?)患者や盗人など人目を避ける人々毎に“そういう者のみの通る山道”が密かに存在したという話からは縄文人や山伏の歩いた尾根道を連想し、サンカ以外にも様々な知られざる文化が歴史の陰に息づいていただろう事を思わせてくれます。
西日本の伝承が集落単位であり、東日本は家(血族)単位であるとの指摘も新鮮でした…ともあれ、一度読んだ位では手放せません。


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以下、個人的メモ。
“日本中の村がこのようであったとはいわぬ。がすくなくとも京都、大阪から西の村々には、こうした村寄りあいが古くからおこなわれて来ており、そういう会合では郷士も百姓も区別はなかったようである(中略)対馬ではどの村にも帳箱があり、その中に申し合わせ覚えが入っていた。こうして村の伝承に支えられながら自治が成り立っていた”(「対馬にて」p.19)

“山の中でまったく見通しもきかぬ道を、あるくということは容易でない(中略)歌声さえきいておれば、どの山中でどうなったかは想像のつくものだ(中略)民謡が、こういう山道をあるくときに必要な意味を知ったように思った”(「対馬にて」p.24)

“一人がうたって息がきれかかると次の人がうたう(中略)次第にセックスに関係のある歌詞が多くなる(中略)夜がふけて大きい声でうたうものだから近所の人も家のまえに群がって来た。そうして三時ごろまでうたいつづけたのである(中略)歌合戦というものがどのようなものであったかおぼろ気ながらわかったような気がした”(「対馬にて」p.34)

“その村では六十歳になると、年より仲間に入る。年より仲間は時々あつまり、その席で、村の中にあるいろいろのかくされている問題が話しあわれる。かくされている問題によいものはない。それぞれの家の恥になるようなことばかりである。そういうことのみが話される。しかしそれは年より仲間以外にはしゃべらない。年よりがそういう話をしあっていることさえ誰も知らぬ”(「村の寄りあい」p.37)

“他人の非をあばくことは容易だが、あばいた後、村の中の人間関係は非を持つ人が悔悟するだけでは解決しきれない問題が含まれている(中略)年とった物わかりのいい女の考え方や見方が、若い女たちの生きる指標になり支えにもなった。何も彼も知りぬいていて何も知らぬ顔をしていることが、村の中にあるもろもろのひずみをため直すのに重要な意味を持っていた(中略)家督を子供にゆずって第一線から退き、隠居の身になって、世間的な責任をおわされることのなくなった老人にして初めて可能なことであった”(「村の寄りあい」p.39)

“年よりは愚痴の多いもので、つい嫁の悪口がいいたくなる。そこでこうした所ではなしあうのだが、そうすれば面と向っ(原文ママ)て嫁に辛くあたらなくてもすむという(中略)わしらも嫁であった時があるが、姑が自分の悪口をいったのを他人から告げ口されたことはないという。つまりこの講は年よりだけの泣きごとの講だというのである(中略)自らおば捨山的な世界をつくっているのである(中略)東北から北陸にかけては、老人が年をとるまで家の実権をにぎっている場合が多い(中略)年寄りの隠居制度のはっきりしている所では、年寄りの役割もまたはっきりしていた”(「村の寄りあい」p.43)

“村を構成する人々の大半が、年齢的なグループに参加している場合(中略)その中では甲乙をつけないのが重要な条件になる(中略)年齢階梯制は西日本に濃くあらわれ、東日本に希薄になり、岩手県地方では若者組さえも存在しなかった村が少く(ママ)ない”(「村の寄りあい」p.53)

“村の中に道が一ヵ所ややひろくなっている所があり、そこを辻とよんでいるが、この辻を持つ村はたいてい辻寄りあいのおこなわれた村であり、非血縁的な地縁結合がつよい(中略)合議制が見られたというのはこうした村々であって、それは必ずしも時代的な変遷からのみ生まれたとは見難い”(「村の寄りあい」p.53)

“年齢階梯制の濃厚なところでは隠居制度がつよくあらわれるのが普通であるが(中略)これを持ちつたえさせたのは、非血縁的な地縁共同体にあったと思われる。そういう村では、村共同の事業や一斉作業がきわめて多かった(中略)そこでできるだけ早く子に嫁をもらい、後を子にゆずって自分は家の仕事に精出す方法が生れ(ママ)た(中略)開墾の余地のあるところではこうした若隠居の例が濃厚にあらわれている。そして隠居分家や末子相続の制度がこれにともなっているのである(中略)年よりは村の政治的な公役から早く手をひくが、祭礼行事などにはたずさわる。そういう意味でなお村の公につながっている。そしてまた村の寄りあいなどにも戸主にかわって出ていくごとが多い(中略)日本中世の文学が隠者によって保持せられて来たことと、村々の隠居制度には共通するものが多分にあると見られる。村においては隠居たちが文化伝承の役割をになっていたのである”(「村の寄りあい」p.54)

“わしらあんまり世間をしておらんもんで、あんまり話を知りません(中略)昔にゃァ世間を知らん娘は嫁にもらいてがのうての、あれは竃の前行儀しか知らんちうて、世間をしておらんとどうしても考えが狭まうなりますけにのう(中略)土佐の奥はわたしら行きませだった。土佐は鬼の国ちうて(中略)女四国というのは土佐の国をぬいた三国でありました”(「女の世間」p.110)

“田植をしても皆モンペをはくようになったし、編笠が経木の帽子になったし、田植は女の仕事ときまっていたのに男も手伝うようになりましたいの。しかし田植がたのしみで待たれたような事はなくなりました”(「女の世間」p.124)

“植縄をひいて正条植をするようになって田植歌が止んだ。田植歌が止んだからと言ってだまって植えるわけではない。たえずしゃべっている(中略)田植歌の中にもセックスをうたったものがまた多かった。作物の生産と、人間の生殖を連想する風は昔からあった(中略)性の話が禁断であった時代にも農民のとくに女たちの世界ではこのような話もごく自然にはなされていた(中略)近頃はミカンの選果場がそのよい話の場になっている(中略)エロ話の上手な女の多くが愛夫家であるのもおもしろい”(「女の世間」p.126)

“人がほんとに住みついたのが明治二十年頃、その頃には入江の向う(ママ)側によく狐火がもえていたものでごいした。あんまり気持のええもんではなかった。それにまた、ほんに静かな晩に、天地もさけるような音のすることがあった。天道法師が飛行なさるのじゃろうなんどいうちょりましたが、明治三十年頃になると家も百戸にふえ(中略)狐火も天道法師の飛行の音もせんようになってしまいやした”(「梶田富五郎翁」p.192)

“市五郎は実によく働いたが財産はできなかった(中略)その上火事で家をやいた。近所の子供が火あそびをしたのが家について、三軒やけ、その上牛を焼死させた。子供の火なぶりではあっても、火もとというのでやはり村に対してつつしまねばならぬ(中略)死んだ牛のために小さい瓦製のほこらをつくった。これを牛荒神としてまつったが(中略)皮膚病がなおるというので、まいる人が多く、いつのまにか私のうちからの管理をはなれて、村人が勝手にまつるようになった(中略)祖父が死んだあくる日、近所の老人が祖父名義の貯金通帳をもって来た。(中略)通帳をあずかっていた老人は、その昔私の家をやいた少年であった”(「私の祖父」p.197)

“祖父にあたる人は長男であったのが伯父の家へ養子に来た。気らくな人で、生涯めとらず、すきな歌をうたいのんきに仕事をして一生をおわったらしい”(「私の祖父」p.199)

“市五郎の家内は毎朝氏神さまへまいった。出稼者のある家はどこでもこうして毎朝早く神まいりをしたものである(中略)カラスはしらせをもって来てくれる鳥だと信じられていた(中略)ところが、どうした事かあるときカラスなきが大へんわるくて御飯もろくにたべぬことがあった。息子はその頃フィジーで病気にかかっていたのである”(「私の祖父」p.199)

“市五郎は犬をつれて村境の山まですてにいった。「そだててやりたいが、みんながいじめるからかわいそうでならぬ。このさきには親切にしてくれる家もあろうから、これからさきへいって見い」と人にさとすように話しかけると、クロはそのままそこにいた(中略)それから何年かの後、島の西の方の村へいって、かえる途中で日がくれた(中略)困って道にじっとうずくまって休んでいると、一匹の黒犬があらわれた。どうもクロによく似ている。その犬のあとをついていくと、しばらくして農家のあかりが見えて来た。ほっとして気がつくともうクロはいなかった”(「私の祖父」p.200)

“仏まいりは先祖礼ともいったが、だまってその家へはいって仏壇のまえへいって拝み、それからその家の人に「ええ盆でごいす」と挨拶した。正月ならば「ええ春でごいす」といってはいっていって、それから仏壇をおがみ、正月の挨拶をしたが、祖父の若いころには「おおとびでごいす」といってはいっていくと、家の人が「もっておいでんされ」と答える。そして家の中で「ええ春でごいす」といったという”(「私の祖父」p.208)

“昔は遊芸の徒の放浪は実に多かった。それは船がすべてただ乗りできた上に、木賃宿もたいていはただでとめたからである(中略)だから「芸は身を助ける」と言われた”(「世間師(1)」p.235)

“煙硝蔵がやけて二、三日たつと、浪人者がたくさん落ちてきた(中略)侍の着物や刀や鉄砲をかたにおいて、蔵王峠をこえて国の方へかえっていった(中略)侍どもは東国の方の者が多かった(中略)安倍川べりへついていた小船へ身なりのよい侍が三、四人どやどややってきて、天保山の沖まで船を出してくれという。その態度が横柄なので、船頭が啖呵をきると「危急の場合じゃ、たってたのむ」というので(中略)軍艦までつれていくと、船へ上っ(ママ)た侍が、「船頭御苦労であった。わしは徳川慶喜じゃ」と言った(中略)明治元年五箇条の御誓文の「各(おのおの)その志をとげ、人心をして倦まざしめん事を成す」というのをとりまちがえて、方々のカカヌスミにいったのも、それから間もない頃であった”(「世間師(2)」p.241)

“こうして別に家にかえる必要もなかったので、知るべをもとめて、つぎからつぎへ旅をした。大川という人は易者をしてあるいても土地土地の人情風俗をよくしらべては帳面にかきとめた。それをまた行く先々ではなしてやる。金をためることもしなかった(中略)大川という人は見聞がひろく、何でも書きとめているので、旅先の、そうしたいろいろの話をしてやる。大ていの人が納得していく百姓や漁師に満足のいく易をたてるには大へんな知識が必要で、夜辻に立ってやるような易は易のうちにはいらぬという”(「世間師(2)」p.252)

“翁は一人旅の時は,一人ものの気らくさでちょいちょい女に手を出した(中略)ただその時だけの交わりでかえって女は気がはれたり、元気が出たりする(中略)信濃巫女と旅さきで馴染になったら、どうしてもはなれぬという。はなれたら呪い殺してやるというので翁もすっかり弱りはてた。そして方々へにげあるいた。眼通力のある女でどこへにげても見つけてやってきた(中略)京都あたりにはおっとりとして風流のわかる女がたくさんいた。あるとき宿屋で気品のある女中がきたので、歌を書いてお膳の上にのせておいた。するとお膳をひきにきたとき、それをちょっと見て帯の間にはさんで出ていった。何も言わなんだが、夜ねていると、そっとやってきた。気品のある女には恋歌を書いてわたすと大ていは言うことをきいてくれたものである。しかし、それも畿内を出るとあまり通用しなかった”(「世間師(2)」p.254)

“ところどころで人情風俗はかわっているが、土地のやせて生活のくるしいところが人情はよくない”(「世間師(2)」p.256)

“明治から大正、昭和の前半にいたる間、どの村にもこのような世間師が少なからずいた。それが、村をあたらしくしていくためのささやかな方向づけをしたことはみのがせない。いずれも自ら進んでそうした役を買って出る。政府や学校が指導したものではなかった”(「世間師(2)」p.259)
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