最近読んだマンガ
小林よしのり「卑怯者の島」
初版'15年、小学館刊…作者自身が編集長を務めるという雑誌「わしズム」にて'07年より連載するも'09年の第六話にて中断、後に描き下ろしを加え全十二話で完結し「戦後70年特別企画」として出版されました。
ミッドウェー海戦で守勢に回って以降の太平洋戦争、特に補給線を断たれた南方戦線の過酷さは亡き水木しげるの実録漫画でしか僕は知りません…母方の祖父も“南の島で渇して死んだ”と聞かされましたが、詳しい事は何も分かりません。
先日、僕は「本当の戦争の話をしよう」を読んでいて(半世紀以上も昔の旧日本帝国軍が味わった戦争とは別の話だ)と思いました。
アメリカの戦争は少なくとも第二次世界大戦以降、朝鮮戦争もベトナム戦争も湾岸紛争もイラク紛争も体質的には何も変わっていない気がします…とにかく弾薬にも食料にも事欠かない、出発点から日本的なそれとは根本的に異なるのです。
アメリカは更なる権益の獲得を主眼に戦争をしてきましたが、日本は日清日露からして国土防衛のために大陸へと侵攻していました…権益拡大は副次的産物であり、最大の動機は危機意識からであろうと僕は考えます。
そんな理屈は隣国からすれば身勝手そのものでしょうが、それはまた別の話で。
本作は飽くまでも、一個人の極限状況における心理的葛藤を描く物語なのです。
生存への本能的な我欲と、国土防衛の捨て石に身を捧げる覚悟とのせめぎあい…圧倒的な物量で攻められる絶望と恐怖、そして何よりも犬死にを承知で命を張った同胞への罪悪感と死ぬるべき場所を失った虚脱感。
最終話で終戦から現代へと至り、漫画ならではの強烈なラストに胸が締め付けられました…“日本の戦争映画やTVドラマは、主人公が反戦思想を持った立派な青年で”とは作者あとがきの弁ですが、この点は「本当の戦争の話〜」とも相通じるものが感じられます。
“殺し殺されるぎりぎりの状況で、道徳を論じても意味がない”、故に語らないし語れないのだとしたら。
体験者として語り得る、ご存命の方々も既に多くはいらっしゃらない今後…語り継ぐ必要性とかじゃなく、誰も戦争について聞けない選択肢のなさは豊かじゃないような気がするのです。
作者は体験者ではないけれども、ストーリー展開や心情の描写から僕は真摯な情熱を感じました…作者の人物来歴やイメージ像に抵抗を覚える方々も、そういうのは脇に置いて本作を読んでみてほしいと思います。
個人的には作者の描く漫画ってギャグも好みじゃないし絵柄が非常に苦手なんです、でも本作の心理描写においては逆に絵柄の強烈な個性が欠くべからざる要素になっているんですよ。
最終話の画面の白さは作者が完結前に燃え尽きてしまったかのようですが、これもまた主人公の目線で見えている世界なのでしょう。
“手足を失うことより、俺の日本を失ったことの方がつらいよ”
“あの戦争の評価を巡って人々が勝手な見解を述べ始める”
“二度と口を開かない戦友に敬意を表して、俺も戦争のことは口を開かない”
“若者の気持ちもわからなくなった。だが、こんな平和な社会なのに、生の実感を得られないという一点には、共感を覚えなくもない”
生の実感こそ、時代を超えて誰もが求めるものかと。
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ミッドウェー海戦で守勢に回って以降の太平洋戦争、特に補給線を断たれた南方戦線の過酷さは亡き水木しげるの実録漫画でしか僕は知りません…母方の祖父も“南の島で渇して死んだ”と聞かされましたが、詳しい事は何も分かりません。
先日、僕は「本当の戦争の話をしよう」を読んでいて(半世紀以上も昔の旧日本帝国軍が味わった戦争とは別の話だ)と思いました。
アメリカの戦争は少なくとも第二次世界大戦以降、朝鮮戦争もベトナム戦争も湾岸紛争もイラク紛争も体質的には何も変わっていない気がします…とにかく弾薬にも食料にも事欠かない、出発点から日本的なそれとは根本的に異なるのです。
アメリカは更なる権益の獲得を主眼に戦争をしてきましたが、日本は日清日露からして国土防衛のために大陸へと侵攻していました…権益拡大は副次的産物であり、最大の動機は危機意識からであろうと僕は考えます。
そんな理屈は隣国からすれば身勝手そのものでしょうが、それはまた別の話で。
本作は飽くまでも、一個人の極限状況における心理的葛藤を描く物語なのです。
生存への本能的な我欲と、国土防衛の捨て石に身を捧げる覚悟とのせめぎあい…圧倒的な物量で攻められる絶望と恐怖、そして何よりも犬死にを承知で命を張った同胞への罪悪感と死ぬるべき場所を失った虚脱感。
最終話で終戦から現代へと至り、漫画ならではの強烈なラストに胸が締め付けられました…“日本の戦争映画やTVドラマは、主人公が反戦思想を持った立派な青年で”とは作者あとがきの弁ですが、この点は「本当の戦争の話〜」とも相通じるものが感じられます。
“殺し殺されるぎりぎりの状況で、道徳を論じても意味がない”、故に語らないし語れないのだとしたら。
体験者として語り得る、ご存命の方々も既に多くはいらっしゃらない今後…語り継ぐ必要性とかじゃなく、誰も戦争について聞けない選択肢のなさは豊かじゃないような気がするのです。
作者は体験者ではないけれども、ストーリー展開や心情の描写から僕は真摯な情熱を感じました…作者の人物来歴やイメージ像に抵抗を覚える方々も、そういうのは脇に置いて本作を読んでみてほしいと思います。
個人的には作者の描く漫画ってギャグも好みじゃないし絵柄が非常に苦手なんです、でも本作の心理描写においては逆に絵柄の強烈な個性が欠くべからざる要素になっているんですよ。
最終話の画面の白さは作者が完結前に燃え尽きてしまったかのようですが、これもまた主人公の目線で見えている世界なのでしょう。
“手足を失うことより、俺の日本を失ったことの方がつらいよ”
“あの戦争の評価を巡って人々が勝手な見解を述べ始める”
“二度と口を開かない戦友に敬意を表して、俺も戦争のことは口を開かない”
“若者の気持ちもわからなくなった。だが、こんな平和な社会なのに、生の実感を得られないという一点には、共感を覚えなくもない”
生の実感こそ、時代を超えて誰もが求めるものかと。
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| comic | 2017.06.20 Tuesday | comments(0) | - |