最近読んだ本
マーク・トウェイン(著)、大久保博(訳)「アーサー王宮廷のヤンキー」
中学生の時に読みかけて、文庫本の分厚さと読み辛さに挫折してしまった本作。
本書は'80年に出版された文庫版を改訂した、初版'09年の角川文庫「トウェイン完訳コレクション」の一冊です…かつて読んでいたバージョンと同じかどうかまでは覚えていませんが、一緒な気がします。
表紙カバーとか、厚みが。
話の中身を一言にまとめると「19世紀末のコネチカット・ヤンキーが何故か6世紀のイギリスで大活躍」、なので文中の現代とは今から130年も前なのです…つまり「読者の現代>著者の現代>回想の中の現代」と、著者も予期しなかった入れ子構造なのです。
実際のところ、本書が遥か未来のアジアの島国で読まれる事とは著者もビックリ!でしょうな…巻末の「改訂版刊行にあたって」によると改訂翌年の'10年はトウェインの没後100年目だったそうで、著者と同い年の有名人という“篤姫、小松帯刀、坂本龍馬、福澤諭吉、松平容保、土方歳三”から(明治時代→飛鳥時代)と日本バージョンを想像してみたりすると別の意味でまたビックリ!です。
ひょっとしたらタイムスリップ物の元祖かもしれませんがSFじゃありません、ファンタジーというより法螺話なのですが最晩年の「不思議な少年」に劣らぬ辛口批評は著者らしいな。笑
本書は「著者が遭遇した奇妙な人物の手記」といった体裁で書かれており、その点でも入れ子になってて…更には脚注の解説から察するに、本書は「アーサー王の死」というトマス・マロリーの古典文学に基づくパロディ小説っぽいのです。
そういった複眼的メタ要素を読み解けるならば、きっと下手なラノベなんかよりスリリングなんだろうけど…なんといっても発想が古いっていうかアイデアをパクられ過ぎた出涸らし状態なのと、アーサー伝承が文化教養レベルで根付いている欧米の感覚で理解する事は出来ないですから誰にもオススメしづらいですね。
活字は小さいし、厚いし。
個人的には「コネチカット州で職人頭を務めていた」というヤンキーが、やけに広範な知識と政治的なバランス感覚に長けている点はご都合主義だと思いましたけど…やはり皆既日蝕を予言する逆転劇は改めて読んでも楽しめました、ただし記憶では中盤エピソードだった筈が序盤でアーサー王の宰相に引き立てられる契機だったとは意外でした。
彼をライバル視する魔術師マーリンが突っ掛かってくる度に体よくあしらい、民衆を虐げる君主制を改革すべく東奔西走する主人公…ロマン幻想を抱く人が顔を真っ赤にしそうな、不潔で無知蒙昧な中世や騎士鎧の描写など今でも可笑しい!
統一通貨の発行から印刷物の流通に通信網の整備と、慎重かつ急速に下準備を進めて貴族制度も実質的に解体してしまうのですが…やはりラスボスは英国国教会、つまり宗教なのですな。
ほんの油断から寝首を掻かれて大ピンチに陥るも、迫る大軍勢を近代的叡知で死体の絨毯に…苦い勝利に酔う間もなくマーリンが忍び寄り、予想外な形で呆気ない幕切れを迎えました。
思わず最終章を二度読みしましたが、このオチのなさは歴史改変モノとしての宿命という気もしてきます。
それにしても最近ちょっと話題になった「賢者の孫」とかいうなろう小説さ、本書をパクってません?笑
追記: 日蝕の元ネタは、1504年の4回目の航海でジャマイカ住民を騙したというコロンブスの月食エピソードかもしれません。
関連あるかもしれない記事:
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→〈タイム・スリップ〉関連記事
→〈ラノベ〉関連記事
以下、個人的メモ。
中学生の時に読みかけて、文庫本の分厚さと読み辛さに挫折してしまった本作。
本書は'80年に出版された文庫版を改訂した、初版'09年の角川文庫「トウェイン完訳コレクション」の一冊です…かつて読んでいたバージョンと同じかどうかまでは覚えていませんが、一緒な気がします。
表紙カバーとか、厚みが。
話の中身を一言にまとめると「19世紀末のコネチカット・ヤンキーが何故か6世紀のイギリスで大活躍」、なので文中の現代とは今から130年も前なのです…つまり「読者の現代>著者の現代>回想の中の現代」と、著者も予期しなかった入れ子構造なのです。
実際のところ、本書が遥か未来のアジアの島国で読まれる事とは著者もビックリ!でしょうな…巻末の「改訂版刊行にあたって」によると改訂翌年の'10年はトウェインの没後100年目だったそうで、著者と同い年の有名人という“篤姫、小松帯刀、坂本龍馬、福澤諭吉、松平容保、土方歳三”から(明治時代→飛鳥時代)と日本バージョンを想像してみたりすると別の意味でまたビックリ!です。
ひょっとしたらタイムスリップ物の元祖かもしれませんがSFじゃありません、ファンタジーというより法螺話なのですが最晩年の「不思議な少年」に劣らぬ辛口批評は著者らしいな。笑
本書は「著者が遭遇した奇妙な人物の手記」といった体裁で書かれており、その点でも入れ子になってて…更には脚注の解説から察するに、本書は「アーサー王の死」というトマス・マロリーの古典文学に基づくパロディ小説っぽいのです。
そういった複眼的メタ要素を読み解けるならば、きっと下手なラノベなんかよりスリリングなんだろうけど…なんといっても発想が古いっていうかアイデアをパクられ過ぎた出涸らし状態なのと、アーサー伝承が文化教養レベルで根付いている欧米の感覚で理解する事は出来ないですから誰にもオススメしづらいですね。
活字は小さいし、厚いし。
個人的には「コネチカット州で職人頭を務めていた」というヤンキーが、やけに広範な知識と政治的なバランス感覚に長けている点はご都合主義だと思いましたけど…やはり皆既日蝕を予言する逆転劇は改めて読んでも楽しめました、ただし記憶では中盤エピソードだった筈が序盤でアーサー王の宰相に引き立てられる契機だったとは意外でした。
彼をライバル視する魔術師マーリンが突っ掛かってくる度に体よくあしらい、民衆を虐げる君主制を改革すべく東奔西走する主人公…ロマン幻想を抱く人が顔を真っ赤にしそうな、不潔で無知蒙昧な中世や騎士鎧の描写など今でも可笑しい!
統一通貨の発行から印刷物の流通に通信網の整備と、慎重かつ急速に下準備を進めて貴族制度も実質的に解体してしまうのですが…やはりラスボスは英国国教会、つまり宗教なのですな。
ほんの油断から寝首を掻かれて大ピンチに陥るも、迫る大軍勢を近代的叡知で死体の絨毯に…苦い勝利に酔う間もなくマーリンが忍び寄り、予想外な形で呆気ない幕切れを迎えました。
思わず最終章を二度読みしましたが、このオチのなさは歴史改変モノとしての宿命という気もしてきます。
それにしても最近ちょっと話題になった「賢者の孫」とかいうなろう小説さ、本書をパクってません?笑
追記: 日蝕の元ネタは、1504年の4回目の航海でジャマイカ住民を騙したというコロンブスの月食エピソードかもしれません。
関連あるかもしれない記事:
【最近読んだ本】ライマン・フランク・ボーム「オズのふしぎな魔法使い」| 2013.01.09
【最近読んだ本】マーク・トウェイン(著)、中野好夫(訳)「不思議な少年」| 2018.04.07
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以下、個人的メモ。
“良心は人間にくっついているものの中でいちばん不快なものの一つだ”(p.198)
“奴隷制度が奴隷所有者の道徳的知覚力をにぶらせた(中略)そして、特権階級つまり貴族は、ただ名前だけが違う奴隷所有者の一団にすぎない”(p.296)
“知的「労働」とはそもそも呼び方が間違っている。それは喜びであり道楽であって、それ自身がすでに最高の報酬となっているのだ(中略)労働から得られる喜びという形の報酬が高ければ高いほど、現金という形の報酬もまた高くなってゆくのだ。そしてそれはまた、あの目に見えぬペテン師たちの法則でもあるのだ”(p.350)
“当時わが国の南部の「プア・ホワイト」たちは、まわりの奴隷領主たちからたえず蔑まれ、しばしば侮辱されていた(中略)それなのにその連中はあらゆる政治運動において奴隷領主たちの側に、びくびくしながら、喜んでついてきて、奴隷制度を支持し永続させようとした”(p.374)
“国王なんていうものは、神々しさなんか何もないのだ。とどのつまり、浮浪者と変わりないのだ(中略)それが王さまだと知らないときにはだ。しかし、いったん王さまだということがわかると、いやはやあきれたものだ、人は息をのむのだ”(p.439)
“つまり円満かつ完全なる無血革命だ。その結果は共和国の誕生だ(中略)わたしは卑しい熱望をいだきはじめていて、わたし自身がその共和国の初代の大統領になりたいと思っていたのだ。そうだ、いくらか人間臭いところがわたしにもあったのだ”(p.495)
| books | 2018.09.28 Friday | comments(0) | - |