
篠田節子「ルーティーン」
この文庫の装幀というかカバーはインパクトがあるなー、鯨幕というかVIVA YOUみたいな白と黒の縞模様。
副題に「篠田節子SF短編ベスト」とあるけど、どんな類いのSFなのかがまったくイメージ出来ないし。
という訳で、純粋に装幀パワーだけで借りてみた本書…初版'13年のハヤカワ文庫、10編とエッセイ&インタビュウ各1編を収録。
初出は'93〜08年で表題作は書き下ろし、如何にもSFな作品から(どこがSFなの?)という作品まで予想外に濃いめの味わいが。
巻末解説によると、著者は20余年のキャリアを持ち一般にはジャンル横断作家と認識されているそうで。
「子羊」は清らかな世界の“神の子”M24と外界から招かれた汚ならしい笛吹きの交流を描き、鍛練を要する音色により無垢な肉体と魂に芽生えた自我が楽園の真実を受け入れるお話。
「世紀頭の病」は旧コギャル世代に蔓延する謎の老化症から始まるハチャハチャSF悲喜劇、あの頃の筒井康隆みたいなオチも傑作!
「コヨーテは月に落ちる」は終末願望を刺激する不条理劇、再開発された埋め立て地のイメージは非常に共感…キャリアウーマンの描写には、著書の来歴が反映されていそうな印象も。
「緋の襦袢」は非SF、ケースワーカーと老婆の軽い住居ホラーという感じ。
「恨み祓い師」もSFじゃなくオカルト風味、序盤の昭和ジェンダー恨み節は女性作家ならでは…というか「緋の襦袢」といい先日の近未来SF集で読んだ人?と思ったけど、共通してたのは老化社会と女性だけで完結してるという点かな。
「ソリスト」も非SFでコンサート会場の一幕物、ロシアの天才ピアニストにヤキモキさせられる流れから唐突に放り込まれる歴史の闇…如何にもオソロシア、著書の博識にもビックリ。
収録作では最古の「沼うつぼ」は、言わば(昭和の土着的「老人と海」)か…男の歪んだ心情を簡潔に描く力量と、張り詰めた描写に反した読みやすさは見事。
「まれびとの季節」はアジア辺境の島を舞台にした新旧の宗教対立、古風な倫理観に埋没させられる感覚に心地好く酔いながらも熱帯の悲しみに浸れました。
「人格再編」は超高齢化+正論社会の果てに出現する臨場感あふれる近未来を、高度医療に翻弄される医師を通じて描くブラックユーモアSF…因業婆が一転して最貧国へ行く件(くだり)で大笑い、格家族化の功罪では我が意を得たりとも。
そして表題作、東日本大震災を思わせる出来事にキャリアを捨てた男の意識が生々しいな…ユーミンの「気ままな朝帰り」をネガポジ逆転させた、自由気儘な20年を経て覗き込む眼差し!
恥ずかしながら今まで著書を名前すら知らなかったので、ボーナストラック的なインタビュウで著書を知るという構成は有り難かったな…より正確に言うならライブのメンバー紹介的な?芝居の後で緞帳前に並ぶような?アニメとかのエンディングでキャラが挨拶するみたいな?って、何か違うけどそんな感じがして。笑
インタビュアーの山岸真や同席の大森望といった大御所(?)との対話も面白かったし、SF研究家という牧眞司(牧伸二じゃないよ)という本書を出版した編者の熱い語りにも好感。
まさしくベスト盤っぽい著書の入門書ですね、内容もですが絶妙なまとめ方で。
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以下、個人的メモ。
この文庫の装幀というかカバーはインパクトがあるなー、鯨幕というかVIVA YOUみたいな白と黒の縞模様。
副題に「篠田節子SF短編ベスト」とあるけど、どんな類いのSFなのかがまったくイメージ出来ないし。
という訳で、純粋に装幀パワーだけで借りてみた本書…初版'13年のハヤカワ文庫、10編とエッセイ&インタビュウ各1編を収録。
初出は'93〜08年で表題作は書き下ろし、如何にもSFな作品から(どこがSFなの?)という作品まで予想外に濃いめの味わいが。
巻末解説によると、著者は20余年のキャリアを持ち一般にはジャンル横断作家と認識されているそうで。
「子羊」は清らかな世界の“神の子”M24と外界から招かれた汚ならしい笛吹きの交流を描き、鍛練を要する音色により無垢な肉体と魂に芽生えた自我が楽園の真実を受け入れるお話。
「世紀頭の病」は旧コギャル世代に蔓延する謎の老化症から始まるハチャハチャSF悲喜劇、あの頃の筒井康隆みたいなオチも傑作!
「コヨーテは月に落ちる」は終末願望を刺激する不条理劇、再開発された埋め立て地のイメージは非常に共感…キャリアウーマンの描写には、著書の来歴が反映されていそうな印象も。
「緋の襦袢」は非SF、ケースワーカーと老婆の軽い住居ホラーという感じ。
「恨み祓い師」もSFじゃなくオカルト風味、序盤の昭和ジェンダー恨み節は女性作家ならでは…というか「緋の襦袢」といい先日の近未来SF集で読んだ人?と思ったけど、共通してたのは老化社会と女性だけで完結してるという点かな。
「ソリスト」も非SFでコンサート会場の一幕物、ロシアの天才ピアニストにヤキモキさせられる流れから唐突に放り込まれる歴史の闇…如何にもオソロシア、著書の博識にもビックリ。
収録作では最古の「沼うつぼ」は、言わば(昭和の土着的「老人と海」)か…男の歪んだ心情を簡潔に描く力量と、張り詰めた描写に反した読みやすさは見事。
「まれびとの季節」はアジア辺境の島を舞台にした新旧の宗教対立、古風な倫理観に埋没させられる感覚に心地好く酔いながらも熱帯の悲しみに浸れました。
「人格再編」は超高齢化+正論社会の果てに出現する臨場感あふれる近未来を、高度医療に翻弄される医師を通じて描くブラックユーモアSF…因業婆が一転して最貧国へ行く件(くだり)で大笑い、格家族化の功罪では我が意を得たりとも。
そして表題作、東日本大震災を思わせる出来事にキャリアを捨てた男の意識が生々しいな…ユーミンの「気ままな朝帰り」をネガポジ逆転させた、自由気儘な20年を経て覗き込む眼差し!
恥ずかしながら今まで著書を名前すら知らなかったので、ボーナストラック的なインタビュウで著書を知るという構成は有り難かったな…より正確に言うならライブのメンバー紹介的な?芝居の後で緞帳前に並ぶような?アニメとかのエンディングでキャラが挨拶するみたいな?って、何か違うけどそんな感じがして。笑
インタビュアーの山岸真や同席の大森望といった大御所(?)との対話も面白かったし、SF研究家という牧眞司(牧伸二じゃないよ)という本書を出版した編者の熱い語りにも好感。
まさしくベスト盤っぽい著書の入門書ですね、内容もですが絶妙なまとめ方で。

以下、個人的メモ。
“すさまじい民族浄化の実態はソビエト連邦解体後に、明るみに出た(中略)ソ連邦に組み込まれた周辺小国に対するジェノサイドは、スターリン体制下で実行に移された。一九四〇年代から、五〇年代前半にかけてのことだ”(「ソリスト」p.257)
“神の審判で善行が認められて、緑園に送られたとしても、そこでまた果物を食うのかと思うとうんざりする”(「まれびとの季節」p.347)
“不浄なものが清浄な世界を作り、清浄なものはつねに汚れを内包する(中略)清浄も不浄も人が作り出したもので、神はそんなものには頓着しないのではないか”(「まれびとの季節」p.357)
“子育て子作り支援策もようやく効果を発揮し少子化は止まり、憲法改正と教育改革を通じて、それまでの行きすぎた個人主義の流れは大きく変わった(中略)子供の非行や、老人の孤立といった様々な問題を生み出した格家族は急速に減少し(中略)あらゆる災厄に見舞われた日本からは、多少の業績を上げている企業とまともな人材はほぼすべて海外に逃げ(中略)にもかかわらず見かけの失業率はさほど高くない。
はなから人生を諦めた彼らは、職を求めていないからだ”(「人格再編」p.366)
“産業どころか人材と能力が空洞化した日本は、なぜか不妊治療と並んで、とりあえず死なせない、という技術だけは世界の最高峰を極めていた(中略)人はどんな状態になろうと生きていることだけですばらしい、という人権活動家たちの主張は、人間の尊厳を約束する絶対的真理として、あらゆる道徳の上に君臨するものとなった(中略)ようやく不自然な寿命の引き延ばし処置が、禁止されるようになった。表向きは人道的理由からだが、実際のところ医療と福祉の双方から国家財政が圧迫され、もはやシステムが耐えられなくなったからだ”(「人格再編」p.370)
“年齢とともにネガティブに、頑固に、知的能力が衰えたわりには狡猾で、すべてに鈍感なくせに、自分のプライドを傷つける表現にだけは異常に鋭敏で、自分がそのとき気持ちいいか否かということだけに関心を抱く刹那的な生き物に変わっていく”(「人格再編」p.373)
“キレる若者を道徳と家族主義で抑え込み、次に耄碌因業老人たちを最先端の医療技術で人格改造してみれば、今度は中高年から若者の間に、あたかも末法の世に生きているかのような悲嘆の気分が広がってきた(中略)親世代に複雑な問題の解決を委ね、彼らの包容力によって悲しみや苦しみから遠ざけられていた子や孫たちは、現実的な試練を経て成長する機会を失った(中略)かつて彼らを包み、慈しみ育てたものたちは、老いることでゆっくり、若い世代に別れを告げてゆく”(「人格再編」p.401)