最近読んだ本
マーク・トウェイン(著)、大久保博(訳)「ハックルベリ・フィンの冒険」
初版'04年の角川文庫、こちらも「アーサー王宮廷のヤンキー」同様「トウェイン完訳コレクション」の一冊です…子供の頃に読んだ童話絵本をイメージしたら大違いですよ、これまた「アーサー〜」並みの分厚さで読むのが大変でした。笑
「アーサー〜」もそうでしたが、本書を理解するには約120年前のアメリカ南部の教養がないと分かりにくいんですよ…いかにも著者らしい、古き良きアメリカの牧歌的なジュブナイルに見せ掛けた辛辣な社会批判が散りばめられている事は見当が付くのですけど。
そこをナイスフォローしてくれてる、巻末のあとがきを先に読む方が好いかも?
しかしあとがきの追記で、本文中の“黒ん坊”という訳出への言い訳を補足しなきゃならなかったのってさ…やっぱクレームに対する予防線を張っとかないと、またぞろ「ちびくろサンボ」の二の舞になりかねないからなのでしょうねぇ?笑
正直なところ、本書を読むまで「トム・ソーヤの冒険」の大筋と混同してました…こちらは「トム〜」の続編であり、家出したハックが黒人奴隷のジムとミシシッピー川を下っていく途中で様々な出来事に遭遇するロードムービー的な話で。
終盤のエピソードにトムが加わってくるのですが、彼もまた著者の皮肉を体現する側の役とは気の毒な!
トムはハックにとって「ヤンチャの師匠」な筈なのに、やる事なす事どうも的外れに思えて…なんだかスッキリしない幕切れだと思ってたのを、あとがきで解説されて目からウロコ状態。
本書を出版した翌年から書き始めたという「アーサー〜」や、晩年に書かれたとされる「不思議な少年」を読んでいたから強い反骨精神が本書にも潜んでいると予測はしてましたが…むしろ著者自身ヤンキーならぬ「奴隷制時代の現代人」じゃないかと驚くほど現代的な視点の持ち主で、本気で当時の旧態依然とした大衆意識を変えたかったのだと思えてきます。
彼が生きてたら、トランプ政権に絶望しちゃうな。笑
訳者によるあとがきは、本書に仕込まれた著者の真意を種明かししてくれます…南部という定義は“ミシシッピ河とオハイオ川とが合流するところにあるケイロという町”以南を指すそうで、迷信深くリンチに興じる自らを敬虔な善人と信じる南部人をストレートに描いていたら出版直後に猛反発を買っていたでしょう。
いわば南部のエクソダスですが、実は未だに過去の話とは言えないのかも…というのは、先日みた「奇跡の絆」の元になった人物が語った「現代でも密かに奴隷制度が存続している」という話を思い出したからで。
アメリカにも、メディアが流さない恥部はあるのね。
“アメリカ南部では、南北戦争以前、名士はみな「ミスター」の代わりに「大佐」とか「将軍」とか「判事」とかと呼ばれていた”といった南部あるあるや、著者も南部人だからこその“もし本当のリンチが行われるとすれば、それは暗闇のなかで行われるはずだ。南部式にな”といったフレーズは興味深いです…袋叩きにしたペテン師をコールタールに鶏の羽根をまぶして焼き殺すと知ったハックの“良心ってぇものは、分別なんかもってねぇ”という嘆きは「不思議な少年」に通じる著者の悲憤ですね。
“どんな人間の皮膚にだって、奴隷の色はついている”とは、シンプルな名言。
追記:下線を引いた言葉に関して、そういえば元ザ・クラッシュのジョー・ストラマーが生前「所詮は誰もが下働きなのさ」と言っていたのを思い出しました。
それとWikipedia情報によれば、本書は“アメリカ南北戦争以前の、おそらく1830年代か1840年代頃を舞台としている”そうで、ヘミングウェイら擁護派の声も空しく閲覧制限や自粛の対象となっているそう。
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「アーサー〜」もそうでしたが、本書を理解するには約120年前のアメリカ南部の教養がないと分かりにくいんですよ…いかにも著者らしい、古き良きアメリカの牧歌的なジュブナイルに見せ掛けた辛辣な社会批判が散りばめられている事は見当が付くのですけど。
そこをナイスフォローしてくれてる、巻末のあとがきを先に読む方が好いかも?
しかしあとがきの追記で、本文中の“黒ん坊”という訳出への言い訳を補足しなきゃならなかったのってさ…やっぱクレームに対する予防線を張っとかないと、またぞろ「ちびくろサンボ」の二の舞になりかねないからなのでしょうねぇ?笑
正直なところ、本書を読むまで「トム・ソーヤの冒険」の大筋と混同してました…こちらは「トム〜」の続編であり、家出したハックが黒人奴隷のジムとミシシッピー川を下っていく途中で様々な出来事に遭遇するロードムービー的な話で。
終盤のエピソードにトムが加わってくるのですが、彼もまた著者の皮肉を体現する側の役とは気の毒な!
トムはハックにとって「ヤンチャの師匠」な筈なのに、やる事なす事どうも的外れに思えて…なんだかスッキリしない幕切れだと思ってたのを、あとがきで解説されて目からウロコ状態。
本書を出版した翌年から書き始めたという「アーサー〜」や、晩年に書かれたとされる「不思議な少年」を読んでいたから強い反骨精神が本書にも潜んでいると予測はしてましたが…むしろ著者自身ヤンキーならぬ「奴隷制時代の現代人」じゃないかと驚くほど現代的な視点の持ち主で、本気で当時の旧態依然とした大衆意識を変えたかったのだと思えてきます。
彼が生きてたら、トランプ政権に絶望しちゃうな。笑
訳者によるあとがきは、本書に仕込まれた著者の真意を種明かししてくれます…南部という定義は“ミシシッピ河とオハイオ川とが合流するところにあるケイロという町”以南を指すそうで、迷信深くリンチに興じる自らを敬虔な善人と信じる南部人をストレートに描いていたら出版直後に猛反発を買っていたでしょう。
いわば南部のエクソダスですが、実は未だに過去の話とは言えないのかも…というのは、先日みた「奇跡の絆」の元になった人物が語った「現代でも密かに奴隷制度が存続している」という話を思い出したからで。
アメリカにも、メディアが流さない恥部はあるのね。
“アメリカ南部では、南北戦争以前、名士はみな「ミスター」の代わりに「大佐」とか「将軍」とか「判事」とかと呼ばれていた”といった南部あるあるや、著者も南部人だからこその“もし本当のリンチが行われるとすれば、それは暗闇のなかで行われるはずだ。南部式にな”といったフレーズは興味深いです…袋叩きにしたペテン師をコールタールに鶏の羽根をまぶして焼き殺すと知ったハックの“良心ってぇものは、分別なんかもってねぇ”という嘆きは「不思議な少年」に通じる著者の悲憤ですね。
“どんな人間の皮膚にだって、奴隷の色はついている”とは、シンプルな名言。
追記:下線を引いた言葉に関して、そういえば元ザ・クラッシュのジョー・ストラマーが生前「所詮は誰もが下働きなのさ」と言っていたのを思い出しました。
それとWikipedia情報によれば、本書は“アメリカ南北戦争以前の、おそらく1830年代か1840年代頃を舞台としている”そうで、ヘミングウェイら擁護派の声も空しく閲覧制限や自粛の対象となっているそう。
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| books | 2019.05.22 Wednesday | comments(0) | - |