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V.A.「マンガでわかる戦後ニッポン」
初版'15年、双葉社刊。
13名の漫画家による短編を収録した、500ページ弱のアンソロジーです。
巻末の内田樹(たつる)による解説は、先ず“1965年、日本の若者たちはビートルズに熱狂していた”というメディアの常套句から切り出します…当時15歳だった内田の同学年には、少なくとも“「あの時代、人々はみな・・・であった」というような定型文”は当てはまらなかったと。
そうした“共同化された模造記憶”に残らない、例えば映画「三丁目の夕日」で省かれた生活圏の臭気や路面の泥濘や蚊柱なども…それもまた時代の空気であり、失われた戦後であると。
内田いわく“常民のなにごともないような日常を記録として書き残す”仕事には、宮本常一が著した「忘れられた日本人」の民俗学に通じる意義があったと…かつての“ときには禁圧され、ときには軽んじられた「弱いジャンル」だった”頃に漫画家を生業とした「社会的弱者」の視点は、大上段から過ぎ去った時代を定義する常套句に見過ごされた「傷」を描いていると。
そう言われてみて、ハッと気付かされました…昨今の漫画と比べて昔の漫画に多少の重苦しさを覚えるのは、単に作画技法の見映えが違うだけではなかったと。
汲み取りの家々がひしめく臭気や、暗がりの多さを。
作者自身の実体験が反映され、そこに「傷」が描かれているからなんだ…インクとGペンがCG作画に変わった以上に、確かに“世間の風”が写っていたのか!
こうして異なる作者による、時代の移ろいに併せた作品の列びで読むと、頭では分かったような気でいた感じが身体にまで下りてくるようです…この作品集を読んだ人の感想も、きっと千差万別になる筈だしそうでなくては不自然でしょう。
絵面だけ追って(で何?)と思う人や、昔話と読む人がいて当然だろうし…同時代を生きた人なら、逆に批判的な感想もあるだろうし。
戦後という歴史の束の間に、多様な痕跡があるのね。
中野晴行という人物による、作品の背景と作者エピソードを交えた各作品解題も丁寧で好印象…企画にブレがないのは、内田と中野の起用が奏効したのではと。
また収録された作家陣も幅広く、こうした企画ならば鉄板処の手塚治虫や水木しげるにつげ義春などは想定内でしたが…個人的に意外だった大友克洋や諸星大二郎、岡崎京子と谷口ジローも含まれていたらアンソロジーのテーマに関心がなくても漫画好きなら大概は手に取ってしまうでしょう。
これで税込¥1,400ですよ、そりゃあ買うしかないわな…って、図書館で借りてきた僕が言うのも何ですが。
えぇ買いますとも後日!笑
→〈昭和・サブカル〉関連記事
→〈50年代〉関連記事
以下、個人的メモ。
初版'15年、双葉社刊。
13名の漫画家による短編を収録した、500ページ弱のアンソロジーです。
巻末の内田樹(たつる)による解説は、先ず“1965年、日本の若者たちはビートルズに熱狂していた”というメディアの常套句から切り出します…当時15歳だった内田の同学年には、少なくとも“「あの時代、人々はみな・・・であった」というような定型文”は当てはまらなかったと。
そうした“共同化された模造記憶”に残らない、例えば映画「三丁目の夕日」で省かれた生活圏の臭気や路面の泥濘や蚊柱なども…それもまた時代の空気であり、失われた戦後であると。
内田いわく“常民のなにごともないような日常を記録として書き残す”仕事には、宮本常一が著した「忘れられた日本人」の民俗学に通じる意義があったと…かつての“ときには禁圧され、ときには軽んじられた「弱いジャンル」だった”頃に漫画家を生業とした「社会的弱者」の視点は、大上段から過ぎ去った時代を定義する常套句に見過ごされた「傷」を描いていると。
そう言われてみて、ハッと気付かされました…昨今の漫画と比べて昔の漫画に多少の重苦しさを覚えるのは、単に作画技法の見映えが違うだけではなかったと。
汲み取りの家々がひしめく臭気や、暗がりの多さを。
作者自身の実体験が反映され、そこに「傷」が描かれているからなんだ…インクとGペンがCG作画に変わった以上に、確かに“世間の風”が写っていたのか!
こうして異なる作者による、時代の移ろいに併せた作品の列びで読むと、頭では分かったような気でいた感じが身体にまで下りてくるようです…この作品集を読んだ人の感想も、きっと千差万別になる筈だしそうでなくては不自然でしょう。
絵面だけ追って(で何?)と思う人や、昔話と読む人がいて当然だろうし…同時代を生きた人なら、逆に批判的な感想もあるだろうし。
戦後という歴史の束の間に、多様な痕跡があるのね。
中野晴行という人物による、作品の背景と作者エピソードを交えた各作品解題も丁寧で好印象…企画にブレがないのは、内田と中野の起用が奏効したのではと。
また収録された作家陣も幅広く、こうした企画ならば鉄板処の手塚治虫や水木しげるにつげ義春などは想定内でしたが…個人的に意外だった大友克洋や諸星大二郎、岡崎京子と谷口ジローも含まれていたらアンソロジーのテーマに関心がなくても漫画好きなら大概は手に取ってしまうでしょう。
これで税込¥1,400ですよ、そりゃあ買うしかないわな…って、図書館で借りてきた僕が言うのも何ですが。
えぇ買いますとも後日!笑
→〈昭和・サブカル〉関連記事
→〈50年代〉関連記事
以下、個人的メモ。
【第一章 廃墟からの復興】
手塚治虫「紙の砦」初出'74年
これは読んだ事ありました、戦時中の学徒動員で出会った少女と非国民的学生の話です…手塚作品って、割とほろ苦い印象があるな。
水木しげる「国際キャング団」初出'69年
傷痍軍人の方が稼いでたという皮肉な話は、僕も祖父から聞きました…仁丹塔など劇画的な背景にも資料価値がありそう、ただタイトルでネタバレはヒドい!笑
つげ義春「大場電気鍍金工業所」初出'73年
朝鮮特需と高度成長って同義じゃなかったのか、そして当時のメッキ工って酷かったのね…使い古しの散弾を爆弾に詰めてたとか、会話の生々しさが好いな。
【第二章 高度成長の時代】
はるき悦巳「力道山がやって来た」初出'80年
力道山を知らない世代にはピンと来ない、無意識下の打倒アメ公精神…子供時代の他愛ない回想という構成が効いてます、しかし昔からの作家はデフォルメしててもデッサンやパースが狂わないから読みやすいな。
ちばてつや「風のように」初出'69年
僕にとっては(年長世代の読んでた漫画家)というイメージの作者、初めて読んだせいか新鮮に感じます…工業化と宅地化によって消えた移動養蜂家も初めて知りました、しかし幼いチヨちゃん可愛い!笑
勝川克志「ミゼットと電器店(「少年幻燈館」より)」初出'01年
田舎の電気屋が配達車を原付自転車(!)にミゼットと乗り換えてゆく、昭和31年('56)からの6年間を息子視点で描くほのぼの系…自作ラジオの流行が技術大国の礎となったのかもな、やはりオート三輪はカーブに弱かったのね?
大友克洋「上を向いて歩こう(「歌謡漫画大全集」より)」初出'85年
そういや藤原カムイなども、当時は昭和テイスト漫画を描いてたような…東京オリンピック後のユーモアとペーソスという、60年代邦画パロディっぽさには80年代半ばの空気も。
【第三章 「繁栄」の光と影】
西岸良平「丹沢の棟梁(「鎌倉ものがたり」より)」初出'85年
マイホーム改築に絡めた妖怪譚、とはいえ作者の作風ですからご安心を…敢えて「三丁目の〜」を持って来ない辺りに、編集サイドの拘りを感じるような。
諸星大二郎「不安の立像」初出'73年
数日前に読んだオカ板まとめ記事で、タイトルだけ挙がってたのでタイミングにゾクリ…それはともかく酷電の痛勤ラッシュと自殺問題は、半世紀近く経っても未だ過去ではないホラー。
かわぐちかいじ「抱きしめたい」初出'87年
こう見直してくと回想パターン多いね、初恋とビートルズの青春がバブル真っ只中に繋がる本作に続編があったなら?と想像させます。
【第四章 過去から未来へ】
岡崎京子「秋の日は釣瓶落とし」初出'86年
3話連作でジェンダーを軸に描かれる、リゲイン社員と介護相続…これらをリアルタイムで取り扱った嗅覚と力量はスゴいな、そしてバブル景気の核心を衝く言葉が読まれなかった手紙に書かれてたというオチも。
谷口ジロー「犬を飼う」初出'91年
横文字稼業に郊外の一戸建てという絵に描いたような夫婦が、老いゆく飼い犬の最期を看取るまで…'95年の国勢調査で高齢化社会が現実化してたのか、バラまき政治で子供が増える訳ないのに何してたんだろう?
村上もとか「あなたを忘れない」初出'98年
アルツハイマーと診断された老人が故郷の樺太を訪ね、初恋のエレーナと夢の再会を果たす…言葉以上に雄弁な表情で語る、過ぎ去りし日々の思いが沁みます。
| comic | 2019.12.12 Thursday | comments(0) | - |