最近読んだ本
ケン・リュウ(著)、古沢嘉通(訳)「もののあはれ」
初版'17年のハヤカワ文庫、本書は新☆ハヤカワ・SF・シリーズから'15年に「紙の動物園」として出版された本を二分冊した内の一冊だそうで…故に「ケン・リュウ短編傑作集2」なのね、もう一冊の文庫版「紙の動物園」もパラ見して本書を選んだ次第ですが。
本当は「折りたたみ北京」が前から気になっていて、だけど手に取ってみたら「紙の〜」と「折りたたみ〜」よりも全体的には本書が一番面白そうだったのでね…飽くまで中国SFというエキゾチックな興味でいえば、という基準ですけど。
著者は'76年の甘粛省生まれ、といっても現在は在米の弁護士兼プログラマー。
本書に収録された8編は、先ず表題作が先制パンチを食わせてきます…原題も「Mono no Aware」、主人公の大翔が語る日本的な精神性の翻訳感に戸惑いと気恥ずかしさを感じさせられる碁の大局観と利他の解釈!
一読して(分かったように持ち上げてらぁ)と思ったものの、巻末の作品解説によれば“主人公は問題解決のため積極的に行動しなければならない”という西欧的「規則」に従わない中国や日本の物語への興味から書かれたそうで…ポッと出の作家に鼻っ柱を叩かれたような腹立たしさも、他の作品を経て読み返すと腑に落ちました。
しかし「ヨコハマ買い出し紀行」って、例えも秀逸!
次の「潮汐」は並びが上手いな、身構えた所で脱力系とか…解説にもありますが、日本の70年代ハチャハチャ風味に(マジか)と。
「選抜宇宙種族の本づくり習性」も70年代の筒井康隆を彷彿とさせるユーモアSF、そして「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」はデータ人類の少女が古代人の母とピクニックに出るという本領発揮のシンギュラリティSF。
プラスティネーションと不老を扱う「円弧」、様々な神話を織り込んで筒井の「幻想の未来」を上書きする壮大さに至る「波」…それぞれ不老不死をテーマとしながら、孤独についての異なる余韻がまた絶妙。
「1ビットのエラー」は言われるまでもなくテッド・チャンの「地獄とは神の不在なり」を連想させます、ただしテッドの了解は得ているし僕には両作とも非常に印象深い物語ですね…信仰心とは何なのか、もしそれが接続ミスだとしたら?
恋が心のエラーと喩えられるように愛という感覚そのものが幻覚であり、失われた楽園だったとして…この一神教的世界観からの落とし処もまた東洋的といいますか、僕は心地好いけど。
ラスト「良い狩りを」の原題「Good Hunting」は成句なんですね、清代末のファンタジー〜香港スチームパンクという如何にも中国SFらしさに満足しました。
→〈スチームパンク〉関連記事
→〈近代中国〉関連記事
→〈香港〉関連記事
初版'17年のハヤカワ文庫、本書は新☆ハヤカワ・SF・シリーズから'15年に「紙の動物園」として出版された本を二分冊した内の一冊だそうで…故に「ケン・リュウ短編傑作集2」なのね、もう一冊の文庫版「紙の動物園」もパラ見して本書を選んだ次第ですが。
本当は「折りたたみ北京」が前から気になっていて、だけど手に取ってみたら「紙の〜」と「折りたたみ〜」よりも全体的には本書が一番面白そうだったのでね…飽くまで中国SFというエキゾチックな興味でいえば、という基準ですけど。
著者は'76年の甘粛省生まれ、といっても現在は在米の弁護士兼プログラマー。
本書に収録された8編は、先ず表題作が先制パンチを食わせてきます…原題も「Mono no Aware」、主人公の大翔が語る日本的な精神性の翻訳感に戸惑いと気恥ずかしさを感じさせられる碁の大局観と利他の解釈!
一読して(分かったように持ち上げてらぁ)と思ったものの、巻末の作品解説によれば“主人公は問題解決のため積極的に行動しなければならない”という西欧的「規則」に従わない中国や日本の物語への興味から書かれたそうで…ポッと出の作家に鼻っ柱を叩かれたような腹立たしさも、他の作品を経て読み返すと腑に落ちました。
しかし「ヨコハマ買い出し紀行」って、例えも秀逸!
次の「潮汐」は並びが上手いな、身構えた所で脱力系とか…解説にもありますが、日本の70年代ハチャハチャ風味に(マジか)と。
「選抜宇宙種族の本づくり習性」も70年代の筒井康隆を彷彿とさせるユーモアSF、そして「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」はデータ人類の少女が古代人の母とピクニックに出るという本領発揮のシンギュラリティSF。
プラスティネーションと不老を扱う「円弧」、様々な神話を織り込んで筒井の「幻想の未来」を上書きする壮大さに至る「波」…それぞれ不老不死をテーマとしながら、孤独についての異なる余韻がまた絶妙。
「1ビットのエラー」は言われるまでもなくテッド・チャンの「地獄とは神の不在なり」を連想させます、ただしテッドの了解は得ているし僕には両作とも非常に印象深い物語ですね…信仰心とは何なのか、もしそれが接続ミスだとしたら?
恋が心のエラーと喩えられるように愛という感覚そのものが幻覚であり、失われた楽園だったとして…この一神教的世界観からの落とし処もまた東洋的といいますか、僕は心地好いけど。
ラスト「良い狩りを」の原題「Good Hunting」は成句なんですね、清代末のファンタジー〜香港スチームパンクという如何にも中国SFらしさに満足しました。
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| books | 2020.05.28 Thursday | comments(0) | - |