スキャナー・ダークリー [Blu-ray]
スキャナー・ダークリー [Blu-ray] (JUGEMレビュー »)
俳優の仕草や表情をアニメとして再構築する、非常に手間の掛かった映像が生理的に苦手な人もいるでしょうね。
しかしながら出演者も(誰々が出てるから)という理由で観て欲しくはないでしょう、自伝的要素の強い原作を尊重した結果としてのスキャニメーションは実に効果的です。
意義を見出せない業務に延々と従事させられる主人公、彼の破滅を前提とした麻薬撲滅作戦…小さな政府がもたらした民間委託の陥穽、委託された組織間のマッチポンプは緩いディストピアですが。
どこまでが虚構でSFなのか、エンディングには賛否が分かれそう。
紹介記事【2019.07.27】
ブレイク・ビーターズ [ ゴードン・ケメラー ]
ブレイク・ビーターズ [ ゴードン・ケメラー ] (JUGEMレビュー »)
旧東独、といっても今じゃ通じなさそうですが…80年代の社会主義国でヒップホップに目覚めちゃった若者と、彼らの活動を体制翼賛に取り込もうとする当局との丁々発止を描く青春コメディ。
飼い慣らそうとする権力側と調子を合わせつつ苦悩する主人公たち、ベルリンの壁が崩壊して彼らを待ち受けるラストのほろ苦さとタフさに男泣きです。
自分でいる事を描いている点で、英国のサルサ映画「カムバック!」と併せてオススメ。
紹介記事【2019.11.02】
ダーリン・イン・ザ・フランキス 1《完全生産限定版》 (初回限定) 【Blu-ray】
ダーリン・イン・ザ・フランキス 1《完全生産限定版》 (初回限定) 【Blu-ray】 (JUGEMレビュー »)
荒廃した世界で生き残りを賭けて地底人と戦う少年少女、その謎が明らかになるにつれ絶望の色は増すばかりですが…絵空事に潜む「茶色の朝」の未来、大人目線で子供たちの希望を切に願ってしまいました。
次の世代のために何が出来るだろう、この気持ちを失わずにいたいです。
紹介記事【2019.08.28】
月曜日の友達(1-2巻 全巻) 全巻セット
月曜日の友達(1-2巻 全巻) 全巻セット (JUGEMレビュー »)
中学生になったばかりの頃の、世界の拡がりに戸惑う姿は性別や世代を超えて響きますね。
作画力もストーリーテリングも卓越してます、些細な一瞬を捉える巧さが。
忘れていた何か、忘れたくなかった何か…最後のコマに、胸が苦しくなりました。
紹介記事【2019.11.11】
TVアニメ『プラネット・ウィズ』オリジナルサウンドトラック [ 田中公平 ]
TVアニメ『プラネット・ウィズ』オリジナルサウンドトラック [ 田中公平 ] (JUGEMレビュー »)
(↑※サムネイルのリンクはサントラにしています)
所謂スピリチュアルなストーリーでありながら、どこか70年代アニメっぽいお約束とフォーマットをごちゃ混ぜにして力技で着地させたような奇想天外さが独特。
戦隊ヒーローに学園モノ、ジャンプ的な熱血インフレ勝負など…ネタの重ね掛けでも訳分からなくならない見事な構成、思いがけずラストに泣かされました。
正義のあるところに悪がある、よって正義は愛ではない…ならば善とはなんなのか? 先ずはご覧あれ。
紹介記事【2019.09.10】
ポルノ☆スターへの道 [ ニック・スウォードソン ]
ポルノ☆スターへの道 [ ニック・スウォードソン ] (JUGEMレビュー »)
ラジー賞を独占した下ネタ満載ムービー、とりあえず下品ですけど線引きはキッチリしてますね…笑わせる内容は、少なくとも男性なら他人事じゃないというか。
女性同士の巨乳幻想みたいなね、目の付け処が上手いなぁと。
まぁ万人向けではないにせよ、僕は感心しつつ大笑いしました。
紹介記事【2019.10.17】
夜長姫と耳男 (岩波現代文庫) [ 近藤ようこ ]
夜長姫と耳男 (岩波現代文庫) [ 近藤ようこ ] (JUGEMレビュー »)
原作者の作品は知らないので、本作は衝撃的でした…こんな物語が書かれていたのかと、まるで伝承の聞き書きか夢を書き起こしたような浮遊感!
印象としては南伸坊が中国の怪異譚を漫画にした「仙人の壺」に近い、無闇に説明しようとしない描線のアッサリ感が素晴らしいです。
空白の多さに、却って想像力を掻き立てられました。
紹介記事【2019.11.25】
さよならの朝に約束の花をかざろう 通常版 [Blu-ray]
さよならの朝に約束の花をかざろう 通常版 [Blu-ray] (JUGEMレビュー »)
不老不死というか不死者の物語にハマっているとはいえ、ファンタジー世界が舞台だとなぁ…と思ってましたが、不死者の(一般的な寿命の人間社会で生きる哀しみ)というツボを丁寧に描いていて好感が持てました。
寓話的なラストが作品世界と相まって、爽やかに切ないです。
紹介記事【2019.09.23】
おとなのけんか [ ジョディ・フォスター ]
おとなのけんか [ ジョディ・フォスター ] (JUGEMレビュー »)
血生臭い原題の割に、ほぼダイニング一間で完結している会話劇です。
子供の喧嘩に親が出て、大人同士で和やかに話し合って解決する目論見が破綻してエスカレート。
隣人を愛せれば戦争なんて起きない訳で、そんな皮肉な原題と裏腹に子供同士は親心を知らず…淡々としてますが大いに笑わせてくれます、個人的にはオススメ。
紹介記事【2019.10.22】
【中古】 山本耳かき店 ビッグCスペシャル/安倍夜郎(著者) 【中古】afb
【中古】 山本耳かき店 ビッグCスペシャル/安倍夜郎(著者) 【中古】afb (JUGEMレビュー »)
耳かき店ブームの火付け役、なんて書いては申し訳ないのですけども…決してブームに便乗した後追いではない、と。
穏やかな時間の流れる小さな町で、耳かき屋さんを訪れる客の脳内イメージが秀逸です。
こんな表現があったのか、こんな漫画があったのかと目からウロコ耳から(略)。
紹介記事【2019.12.23】
グラン・プリ [Blu-ray]
グラン・プリ [Blu-ray] (JUGEMレビュー »)
最初はソール・バスの映像分割がスタイリッシュというより情報過多に感じましたが、それが後から効いて来るんですね…世界各地を転戦するF1レーサーと彼らを取り巻く人間模様が主軸ながら、走行シーンも見甲斐があります。
クールなドラマと60年代のムードが、ダンディな三船敏郎も含めて現代とは別世界のようです。
紹介記事【2019.12.21】
絵はがきにされた少年 [ 藤原章生 ]
絵はがきにされた少年 [ 藤原章生 ] (JUGEMレビュー »)
アフリカに対する先入観や固定観念が、ことごとく覆されます…偏見を持たないように心掛けていたつもりでも、日本にいて伝わってくる情報自体にバイアスが入っている訳ですが。
西欧支配の呪縛に歪められた各地の民族性や搾取の構造など、日本では見えにくい暗部が著者の目を通して見えてくるようで。
アフリカの話であり、同時に現代の実像でもあるのでは?と。
紹介記事【2019.09.1】
【中古】 マンガでわかる 戦後ニッポン /手塚治虫(著者),水木しげる(著者),つげ義春(著者),はるき悦巳(著者),ちばてつや(著者) 【中古】afb
【中古】 マンガでわかる 戦後ニッポン /手塚治虫(著者),水木しげる(著者),つげ義春(著者),はるき悦巳(著者),ちばてつや(著者) 【中古】afb (JUGEMレビュー »)
現代に至る国内の移ろいを漫画に語らせる好企画アンソロジーです。
漫画にしか出来ない表現は、例えば三輪自動車が走る風景でありリンチされる米軍の操縦士であり…基本的に主観視点であるが故の、俯瞰の効く文学表現よりも接地した仮想体験なのかも。
いわば漫画こそが伝え得た戦後の一片、切り口を変えて続けてもらいたいですね。
紹介記事【2019.12.12】
あきれたあきれた大作戦 [ ピーター・フォーク ]
あきれたあきれた大作戦 [ ピーター・フォーク ] (JUGEMレビュー »)
笑いって鮮度があると思ってました、本作を観るまでは。
先が読めずに引き込まれましたが、確かに繰り返し観たくなるかも…計算されたシナリオが効いた笑いと、映像的な古さもまた味わい深いです。
スタンダードでバカバカしくて無駄のない、意外な傑作。
紹介記事【2019.12.10】
人気マンガ・アニメのトラウマ最終回 極限編 [ 鉄人社編集部 ]
人気マンガ・アニメのトラウマ最終回 極限編 [ 鉄人社編集部 ] (JUGEMレビュー »)
面白可笑しい切り口で紹介されてるので、ファンの方にしてみれば物申したい点も多々ありそうですが。
様々な事情から意外な最終回を迎えていた、有名な作品の数々に先ずビックリ…知って何かの役に立つ訳ではありませんけど、やはり切り口が面白いのですよ。
紹介記事【2019.09.24】
【国内盤CD】【ネコポス送料無料】ファウンテインズ・オブ・ウェイン / トラフィック・アンド・ウェザー
【国内盤CD】【ネコポス送料無料】ファウンテインズ・オブ・ウェイン / トラフィック・アンド・ウェザー (JUGEMレビュー »)
「Stacy's mom」の青春パンクをイメージしてたら好い意味で裏切られました。
どこかSDP「スチャダラ外伝」に通じる旅アルバム、共通する根っこは世代なのかグローバル環境なのか…しかしELOっぽさを連想させるサウンドも厭味なく無理して頑張ってない感じだし、三人称のスキットみたいに様々な切り口で綴られる旅の寸描が詩的。
パッキング上手で飽きさせない仕上がりかと。
紹介記事【2019.07.08】
【中古】[PS2]ローグギャラクシー ディレクターズカット(Rogue Galaxy Director's Cut)(20070321)
【中古】[PS2]ローグギャラクシー ディレクターズカット(Rogue Galaxy Director's Cut)(20070321) (JUGEMレビュー »)
無印版も僕は楽しめましたが、ダレ要素を改善して全体的にボリューム・アップしておりオススメです。
難を言えば、このDC版では攻略本が出てない事ですね…特に武器の合成レシピが違っているし、追加武器はノーヒントで試行錯誤の連続に。
水の惑星にある3連宝箱は、多分エリアボスに乗って飛び移らなきゃ取れないと思うので、これからプレイする方は気を付けてね!笑
紹介記事【2018.07.19】
【中古】PS2 スターオーシャン3 Till the End of Time
【中古】PS2 スターオーシャン3 Till the End of Time (JUGEMレビュー »)
ディレクターズ・カット版が出てるようなので、そちらをオススメします。
僕も終盤でメニュー画面を開こうとしてブラックアウトや異音と共に「ディスクからデータを読み込み中です」と表示されたままフリーズでプレイ断念中です。笑
リアルタイム・バトルの忙しさは好みの問題として、城下町などの雰囲気が最高!
中世レベルの惑星に来た主人公がハイテク宇宙人側、という立ち位置はユニークで楽しめました。
紹介記事【2018.07.25】

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最近読んだ本
シオドーラ・クローバー(著)、行方昭夫(訳)「イシ 北米最後の野生インディアン」

僕にとって、本書に巡りあえた事は暁倖に近い思いを抱かせてくれる。
ずいぶん前に池澤夏樹の本で紹介されていた本書に興味を持ち、僕にしては珍しく書名の他に著者名と出版社名まで控えていたが出会う機会を得ぬままメモを紛失したきりとなっていた。
実は長らく絶版となっていて、'03年に岩波現代文庫として復刊するまで入手は困難な状態だったのだ。

1911年、つまり今から数えて100年前に“イシ”はカリフォルニア住民の前に現れた。
彼らの言葉で「人」を意味する「イシ」という名で呼ばれた、絶滅したヤヒ族の最後の一人だった。
かの地には21以上の小部族がそれぞれの儀式や慣習と多様な方言によって独自の文化を育んでいたが、それらはゴールドラッシュに伴う白人移住者の大量移入までの歴史だ。
自警団を標榜する粗野な流れ者たちに追われて僅かな人数が奥地に逃げ延び、崩壊した暮らしと潜伏の日々の中でイシは生まれ育った。

ついに最後の一人となって3年で白人の前に出て来たイシに、数十年も異国の山中に潜んでいられた旧日本兵を思わず連想した。
だがそれは優劣の比較にはならないし、この紳士的な闘士の欠点でもない。
アメリカ人の全体が卑劣な手段で私欲を満たした訳でもないし、原始的な人は理性を持たないといった固定観念が正しくない事も、本書から理解できるだろう。


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著者の娘であるル=グウィンが、日本版の復刊に際して序文を寄せている。
勝手ながら全文引用させていただくが、それは本書が更に広く読まれてほしいとの気持ちからである。



序文――『イシ』再版に寄せて

 イギリスの水夫アレクサンダー・セルカークの実話が、ダニエル・デフォーによって小説化されて『ロビンソン・クルーソー』として世に出たのはずいぶん前のことだった。難破して無人島に打ち上げられた水夫が、山羊皮を身にまとい、何年も何年もひとりぼっちで浜辺をさまよい歩く。……ところがある日、突然、自分のものではない人の足跡を発見するのだ。これは忘れ難い描写である。
 クルーソーが新入りの漂流者に出会い、「未開人」だと知ると、その男に英語のあだ名――「しもべのフライデー」――をつけ、召使い扱いする。二人は結局救出されて、人が住み、都会のある世界に戻れるのだが、そこはクルーソーの世界であって、フライデーの世界ではない。
 イシの物語はクルーソーの物語を逆にしたようなものである。イシの物語は一九六一年の初版以来、アメリカ人の心を強く捉えてきた。無人島のクルーソーの姿よりも、道徳的な意味合いにおいて、イシの姿のほうがアメリカ人の心に強く迫るものがある。クルーソーの孤独は海での嵐という自然力の猛威によってもたらされたのであったが、イシの場合は、同じ人間である筈の白人の卑劣な集団的残虐行為によるのだから。イシは、皆殺しにされた部族の最後の生き残りとして、家族の惨死を悲しみつつ何年間もひっそりと身を隠して暮らしていた。その間に彼の周囲では侵入した白人の町や農園が次々に出来ていったが、彼は足跡を一つも残さなかった。山の中にまだ「未開人」「野生インディアン」が生存しているのをさとられぬようにと、一歩あるくごとに足跡を掃いて消していたのである。何という孤独であったことか! クルーソーの味わったよりもずっと悲痛な孤独である。
 けれども、彼が孤独で悲惨な暮らしにもはや耐えられなくなって白人の世界に迷い出て来た時、彼の見出したのは、皮肉なことに、覚悟していた死ではなく、思いやりと友情と理解であった。そして「未開」から連れ出されると、すぐに近代都市の真中で残りの生涯を送ることになった。
 イシは有史前の石器時代とあわただしく工業化した二十世紀の間に横たわる巨大な溝をたった一歩で跨いでしまったのである。その一歩は品位のあるもので、人間としての尊厳を少しも失わぬものであった。この事実からも、「文明」と「未開」の間に存在するといわれる溝は、実は単に無知と偏見と恐怖心の溝に過ぎぬことが判明する。
 彼がサンフランシスコの人類学博物館で暮らした五年間、イシは有名人であり、いわば観光客が見物に来る天然記念物のようなものであった。けれども一九一六年に亡くなった後は、イシの協力によってヤナ族の言語その他の情報を研究した人類学者や言語学者を除けば、彼の物語は人びとの記憶から薄らいでいった。直接イシと接触のあった人たちが生存している間にイシの物語を、専門家だけでなく一般人のために書き残しておこうという考えがようやく関係者の頭に浮かんだのは、一九五〇年代になってからだった。
私の父で人類学者のアルフレッド・クローバーは、イシをもっとも親しく知っていた人物の一人であったけれど、イシの物語を執筆するのを望まなかった。その理由はよくは知らない。父が私たち子供にイシの話をしたという記憶はない。イシのことを初めて耳にしたのは、両親が、父の同僚で以前からイシについての資料を集めていたロバート・ハイツァーと伝記執筆の相談を始めた時だった。どうして父がイシのことを口にしたがらなかったか、私には想像がつくような気がする。一番大きな理由は心の痛みであろう。一九〇〇年にカリフォルニアにやって来た父は、無数のインディアンの部族や個人が破滅させられ殺されるのを目撃せねばならなかったに違いない。カリフォルニア原住民の言語、暮らし方、知恵などについての情報を、大量殺戮が完了する以前に、少しでも多く蒐集するというのが、何年にもわたる父の仕事であり、このため父は殺戮の目撃者となったのだ。ナチによるユダヤ人大量殺戮に等しいインディアン撲滅の生き残りであるイシは、父の親しい友人かつ教師になった。
それなのに、それから僅か五年後に結核――これまた白人からインディアンへの死の贈物である――で死亡する。どれほどの悲しみや怒りや責任感に父は悩んでいたことだろう! イシの遺体を解剖するという話があった時、父が「科学研究のためとかいう話が出たら、科学なんか犬にでも食われろ、と私の代わりに言ってやりなさい。われわれは自分らの友人の味方でありたいと思います」と記したことで、父の苦悩は明白に理解できる。イシの死後四十年経っても、イシの物語を語ろうと試みるならば、あのやり場のない怒りがまたこみ上げてくる――父は、そのように信じていたのかも知れない。
 実際にイシの物語を書くことになったのは、私の母シオドーラ・クローバーであった。母はイシにじかに会ったことがないので、父の味わった激しい感情を直接感じなくて済んだのだ。執筆中、母は父の助力を仰いでいたが、本の出版を見ずに父は他界した。カリフォルニア征服の身の毛もよだつ物語を語り、人間が「文明、進歩、明白な天命」の美名のもとに行う悪事を再確認するというのは、母にとって困難で時間を要する仕事であった。しかし母は、ひるむことなく、客観性を重んじ、しかも深い共感をこめてイシの物語を語った。イシその人も母の仕事に協力したと思う。彼の寛大で聡明な精神が暗い道を進む母の行く手を明るく照らしてくれたのであろう。本書の読者にもイシは同じようなことをしてくれていると思う。
『イシ』はベストセラーとなり、今では万人の書となっている。本書が力となって、アメリカ西部史に関する人びとの考え方は変化したし、また、一個のヒューマン・ドキュメントとして無数の読者を感動させてきた。『イシ』を世に送ってから亡くなるまで、母のもとには読者から感謝の手紙が届いたが、そのほとんどすべてに「読んで泣きました……」と記されていた。それは理不尽な殺戮への恥の涙というだけでなく、悲惨さの中で美しいものに出会った喜びの涙だと思う。
 イシの足は「幅広で頑丈、足の指は真直ぐできれいで、縦および横のそり具合は完璧で」あった。注意深い歩き方は優美で「一歩一歩は慎重に踏み出され……まるで地面の上をすべるように足が動く」のであった。この足取りは侵略者が長靴をはいた足で、どしんどしんと大またに歩くのとは違って、地球という共同体の一員として、他の人間や他の生物と心を通わせながら軽やかに進む歩き方だ。イシが今世紀の孤島の岸辺にたった一つ残した足跡は――もしそれに注目しようとしさえすれば――おごり高ぶって、勝手に作り出した孤独に悩む今日の人間に、自分はひとりぼっちではないのだと教えることだろう。

一九九一年六月六日
アーシュラ・K・ル=グウィン
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    | books | 2010.08.14 Saturday | comments(0) | trackbacks(0) |









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